戦いが終わり、記念パーティもした。その後も復興建設や上司をのぞいた仲間内だけのパーティをしたりと、何かと忙しかった。
 ようやく事態が落ち着いた頃には、次の命令を受けにいくといった拍子抜けしてしまうものだった。
 防衛参謀インフェルノはジャングルプラネットへ派遣されることとなる。


 地球の自然あふれる場所、ジャングルシティにくりそつな惑星。それが、ジャングルプラネット。
 新しい星星は主を持たない。だからといってそのまま放っておくには若すぎる。何よりも、戦いに巻き込ませたのだからその責任はとらなければ。
 ジャングルプラネットに誰よりも行きたがっていたのはインフェルノ自身だ。
彼の性格からして、そうは見えないのだが、サイバトロン総司令官は気づいていた。
「……」
 自然溢れる惑星。生き物が住み、小川が流れ山が息吹く。まさに地球そのものだ。
 派遣されたインフェルノはタワー内部に行き、コントロール装置を作動させた。
 目の前の巨大モニターには景色が写り、小さなサブモニターが表示されればそこにはモノグラフが映される。
 戦火の中、燃え尽きた木々は新たに埋められた。
完全なる元の姿になるまでどれくらいかかるかは分からないが、少なくともここにいる以上、見逃すことはないはず。
 はっ、と小さく息を吐きインフェルノは防衛システムを作動させてタワーを後にした。


 ビークルモードでゆっくりと走り、または変形して徒歩で景色を楽しむ。
 さらさらと風が彼の髪を揺らした。
 セイバートロン星に自然はない。だが、建物の造形は目を見張るものがある。それを越えるのが『人工』に対する『自然』。
「…グランドコンボイ司令官」
 気づけば、辺り一帯を見渡せる崖の上。地球の、ジャングルシティにグランドコンボイはインフェルノを連れてきた。
 そして言ったのだ。故郷のほかにもすばらしい惑星がある、と。
 ぽつりと呟いた名に、インフェルノは眼を大きくしたがすぐさま頭を振った。なぜ彼の名を口にしてしまったのか、自分らしくない、と。
 もう戦いは終わった。あとはこの自然たちを守ることに専念すればいいだけだ。だが。
(この虚しさはなんだ?)
 何も心配する必要はない。それなのに心のどこかが満たされないでいる。疑問に思いつつも、インフェルノはその場をあとにした。


 タワーに帰還してモニタールームに入れば、ひとつ息を吐く。降ろしていた瞼をあげれば変わらぬ室内。
期待しつつもそんな己にあきれてしまう。おこがましいにもほどがある、個人的な用事で抜け出すことなどできない人なのに。
「司令官…」
 それでも。
 平和になったからこそ、考えずにはいられないのもまた事実。戦いに身を置いていた頃とはまた別の、不安。
 パネルを操作し、オート設定を事細かに変える。実際の眼で見たものと、用意されていたデータとの食い違いを修正しつつ。
 ふうと一息つき、インフェルノは飲食スペースに置かれたコーヒーカップに目を丸くした。
 ゆらゆらと動く湯気。鼻孔をくすぐる香ばしい香り。かちゃん、と手にとって改めてわかる温かさ。
 くすりと笑い、彼は傍にあったマドラーを手に取り、ゆっくりとかきまぜた。
 ほんの数秒でも、彼がここにいた。己のためにコーヒーを入れてくれた。
本来ならば叱るべきことだが、忙しい合間をぬっての所行。恋人としてなら、許さざるをおえない。

 インフェルノはコーヒーを飲みきると通信回線を開いた。画面に映ったのは書類の山に埋もれる、グランドコンボイ。

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