戦いが終わり、アルファQの宇宙にある星星はゆっくりと成長を続けていた。
一度太陽を失い、荒れ果てていた星も一気に元通りとなり、あらためてその中に眠る力を思い知らされる。
グランドコンボイはセイバートロン星を拠点に、各惑星の調査を部下に頼んだ。
ただ、ロディマスコンボイをはじめとするチームロディマスは別の宇宙へと旅立ってしまったのだが。
モニターに映る自然を眺め、インフェルノはかた、とパネルを押した。
大小のモニターが表れ、小さい方にはモノグラフが映っている。
<インフェルノ>
大きい方のモニターに一瞬だけノイズがはしり、グランドコンボイが映された。
<ジャングルプラネットの様子はどうだ?>
「安定しています。燃えてしまった木なども根の方から芽が出てきていますから、元に戻るのも時間の問題でしょう」
<そうか>
戦いの際にに燃えてしまった木々。その数は何十本とあるが、景観を損なうまではいたっていない。
グランドコンボイは安堵した声で答え、続けてこう言った。
<近いうちにロディマスがそちらによると言ってきた>
「ロディマスコンボイ殿が?」
<迎えてやってくれ。その間は非番とする>
「了解」
通信が切れたことを確認して、インフェルノはパネルを操作してモノグラフをメインモニターに映し、サブにレーダーと外の景色を映すよう切り替えた。
ジャングルプラネットでの仕事は、見張りをかねた云わば星の観察記録だ。非番に近くもある。
だが、今回はその記録も取らなくていい、本当の意味での休日となるだろう。
モニタールームを確認して、インフェルノは自室へと戻った。
ロディマスコンボイの船には、スーパーリンクの相手であり、友人のホットショットが乗っている。
久々に話すことができるだろう。友人同士の気兼ねない話しになるか、はたまた自慢話になるか、予想はつきないが積もるものであることは確かだろう。
息を吐いて、今日の報告書を作り終えると自室を出る。そのままダイニングルームに向かい、茶の準備をすすめる。
相手は伝説の存在であり、グランドコンボイと同等の力を持つ『コンボイ』だ。粗相がないようにするのは当たり前のことだった。
モニタールームからレーダー反応の警告音が鳴ったが、防衛参謀は慌てることもなく、ポッドに水を入れた。
コンロに置いて、モニタールームに向かう。
パチ、とパネルを押すとロディマスコンボイが画面に映った。
「お久しぶりです、ロディマスコンボイ司令官」
<船を停(と)めたい。停泊許可を>
「許可します。座標を送りますのでそこへ」
パネルを操作してインフェルノは、エネルゴンタワーの出入り口へと向かった。
降りてきた船長に敬礼して、モニタールームへと案内する。軽く説明したあと、ロディマスコンボイは部下2人をつれて外へと出た。
実際に眼にしたいのだろう、率先して現場を見るのはいいことだ。
「たまにあの人の考えることが分からなくなるよ」
チャットルームに案内されたホットショットは、出された紅茶を飲みながら呟いた。
ホットショットがロディマスコンボイと共に行動するようになったのは、戦いの最中だ。
以前にも一緒に戦ったことがあるようだが、それは一時のことでありあくまでホットショットは『グランドコンボイの部下』であった。
今は正式に『ロディマスコンボイの部下』ではあるのだが。
「そうか」
軽く相づちを打ち、インフェルノは笑みをこぼした。そうは口にしても別部隊に移った親友は嬉しそうだ。
憧れの人の元で働けるのが楽しいのだろう。
「久々に来たけど、本当に似てるよなぁ、ジャングルシティに」
ごくっ、と最後の一口を飲みホットショットは言った。
地球の密林地帯。古代の遺跡がある自然にあふれた都市(シティ)。
「ああ」
こくり、とインフェルノも己の紅茶に口を付ける。
彼が最初に訪れたのもジャングルシティだ。昨日のように思い出せる初めて地球に降りた日。
コポコポと空になったホットショットのカップへ、紅茶を注ぎ渡すと彼は礼を言って、肩肘をつき苦笑いをした。
どうしたのかと首を傾げると、ホットショットはついていた肩肘をはずし、拳を突き出した。いきなりなんだ、とインフェルノは彼の顔を見る。
「そういえばやってなかったなぁ、と思って」
ロディマスコンボイの船が上陸したあと、そのままメインルームに案内した。目の前の親友と言葉を交わすことさえせずに、だ。
やれやれと苦笑して、インフェルノはやや右にうつむいて、突き出された拳にこぶしを軽くぶつけた。
へへ、とホットショットがはにかむ。
「なあインフェルノ」
冷めきってしまった紅茶に口をつけながら、インフェルノは続きを待つ。
「今も…あの時のこと思い出すのか?」
こくり。
どちらともつかない、飲み込む音が部屋にいやに響いた。
「…思い出すんじゃない。覚えているのさ」
かちゃり、と受け皿にカップを置きインフェルノは答えた。
あの岩が生まれる星、宇宙空間での出来事――あの場にいなかったホットショットには、親友がどれほど辛い経験をしたかなど解(わ)かりはしない。
ただ、過去の記憶がホットショットにはある。仲間を裏切る、裏切られる気持ちのどちらをも経験した彼には。
「そっか」
慰めも気遣いもどんな言葉さえもいわず、ホットショットはただ相槌を打った。余計な言葉は不要だ。
インフェルノは苦笑して、ティーセットを片づけるべく立ち上がった。
「インフェルノ」
「ん?」
「言うまでもないが、お前の帰る場所はサイバトロン(ここ)だからな」
今更か、と笑う彼にインフェルノは「ああ」と返した。
たとえ昔のことだろうと、そう言ってくれるのはありがたい。
あの場にいなくとも彼は――親友は待っていてくれたのだから。
口にはせず、インフェルノは両瞼を降ろして微笑んだ。
そうして言ってくれる友がいる。仲間がいる。
心配する必要はないのだと、そういう気持ちを込めて。