新スペースブリッジも完成し、ギャラクシーコンボイとドレッドロックはつかの間の昼休みをくつろいでいた。
「総司令官、今日は散歩しませんか?」
「ん…そうだな。たまには羽を伸ばすか」
コキコキッ、と首の骨部を鳴らし腕を360℃回転させる。その様子に副司令官はくすりと笑みをもらし、では、と先導する。
おおかたの報告は終わり、事細かな作業もひと段落ついた頃だった。ギャラクシーコンボイは要領はいい方だ、さして問題はないのだが、いかんせん、率いる部下がちょっと癖のある者ばかり。
午前で追われるはずの仕事が午後に回ることなど、何十回あったことか。
しかし、減ることがなくとも増えることもない。一概に、ドレッドロックががんばっているとも言えるのだが。
飛行(フライト)モードで飛ぶギャラクシーコンボイは、引率するジャンボジェット型輸送機にテールランプを光らせながら訊(たず)ねる。
「どこに行くんだ?」
風に身を任せて飛行するドレッドロックはくすと笑い
「日本です。我々ならすぐかえってこれますからね」
と言った。
地上タイプのサイバトロン勢の中でトップ2人は飛行タイプだった。距離があっても全力をだせば、半周くらいは可能だろう。
「日本? なぜまた…」
「あ、見えてきましたよ。ついてきてください」
くいっ、と機体を傾けドレッドロックは着陸態勢に入る。疑問を抱えたまま、ギャラクシーコンボイも彼のあとに続いた。
山頂に降りたドレッドロックとギャラクシーコンボイ。2体はロボットモードになり、整備されていない山道をあてもなく歩く。
「桜か。ドレッドロック、これを見に来たかったのか?」
「いえ、総司令官に見ていただきたくて…。この時期にしか咲かない種類らしいのでちょうどいいかと思いまして」
少し気恥ずかしそうに副司令官は言った。
たまたま調べものをしていたときにヒットした、地球の桜。四季のある日本だからこそ生息できる種類。
綺麗だと、共に見に行きたいと、そう思ったからこそ機会を逃すまいと誘ったのだ。
「うむ、綺麗だ。地球にはまだ我々の知らない場所やものがあるな」
満開とまではいかなくとも、木には小さな花花が咲き誇り大きな実となっている。
本来ならばウグイスなどが密を吸いに来ていてもおかしくはないはずだが、そこはやはり季節柄か。動物も昆虫の姿もない。
「…っ」
落ち葉の残る道を歩いていたギャラクシーコンボイは、いつの間にか抜かしてしまった副司令官へと振り返った。
「ん、どうしたドレッドロック?」
「あいえ。山の上は確かに寒いなと思いまして」
やや俯いていた顔をあげ、ドレッドロックは言った。
プラネットフォースを集めていたときに行った北極ほどとは比べものにはならないが、それなりに冷え込むものだ。ぶるりとドレッドロックは体(ボディ)をふるわせる。
がしゃん、とギャラクシーコンボイは彼の後ろに回り込み、空を見上げた。
「ギャラクシーコンボイ総司令官?」
つられて、仰げばそこには桜が舞っている。地上ではなにもないが、見上げれば雲が流れていき風があるのだと気づく。
ふいに、ギャラクシーコンボイがドレッドロックを抱きしめた。
「そ、総司令官!?」
「日本の気候を甘くみていたな。どうだ? 少しは暖かくなっただろうか」
「っは、はい…」
ほんのりと抱きしめられ、密着している背中が温かくなってくる。
「さて、帰ろうか」
ぱっと離れ、ギャラクシーコンボイは歩きだした。
温もりが離れたことに安心と寂しさが同時に訪れ、ドレッドロックはマスク越しに苦笑した。
束の間の休息は終わりだ。こうして過ごせただけでもよしとせねば。
「もう少し温かくなったら、また来るか」
「そうですね」
ジェットエンジンに巻き上げられた花弁が、螺旋状に舞い上がった。