絶え間なく運ばれてくる患者の中に1人の青年がいた。彼はまた、見たことのないロボット達に運ばれている。
 その青年だけではない。おそらく彼の仲間だろうロボットとウーマンロボットがいた。
 “サイバトロンの父”と呼ばれる初老が、青年のリペアを開始する。それ以上、ラチェットは見ることを止めた。
 怪我人はたくさんいる。手を休めるわけにはいかない。

 一段落して、アルファートリンを見やると青年はおらず外では激しい攻防戦が続いている。
 あのメガトロンと――聞き覚えのない声。
 激しい爆発が聞こえた後、1人のロボットが緊急治療室へ入ってきた。
 ――電撃が走るとは、このことか。
 ラチェットは背筋にぞくりと何かを感じた。恐怖ではない。
「帰ったか、コンボイよ」
 ロボットから目が離せなくなっていたラチェットは、アルファートリンの声に我にかえった。
 無傷で帰って来た『コンボイ』と呼ばれた彼はどことなく、あの青年に似ていた。
「アルファートリン様、リペアしていただき感謝します。しかし…、」
「覚悟を決めたのじゃろう? だからワシは…」
 話しこむ二人にそっとラチェットは近づいていった。彼が無傷というのは奇跡に近い。何しろメガトロンの攻撃を受けて無事だった者はほとんどいないのだから。
「アルファートリン様」
「おお、ラチェット。すまないな、手伝わして」
「いいえ。医者として当然の務めですよ」
 傷ついた者を治す。リペア機構を備えた体に自我は“医者”という職を与えた。そしてラチェット自信、その
“業”とも言えるモノに誇りを持っている。
「ああ、そうじゃ。紹介しよう、『コンボイ』じゃ。これからは彼がサイバトロンの司令官となる」
 青い頭部に灰色のマスク、赤いボディを持った彼の瞳(アイ)は当然の如く、空色――とても澄み切った。
 反論はしなかった。できるわけがない。
 ラチェットは「よろしく」と差し出された手を握る。
 澄み切ったアイは勇ましくもあり、何もかも任せられると感じたから。

 突然誕生した、サイバトロンの新リーダー。
 これまで通り『医者』としてラチェットはコンボイへついて行くことにした。

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