「っ…!」
ライトショルダー部、関節・神経コード損傷。
左膝部、オイルコード損傷。
周りは瓦礫と両軍の死体。大半は敵の、だが。
左手をライトショルダーにあて、左足を引きずりながらプロールは歩いていた。
デストロンの1部と闘って負った傷だ。それも死んでいった者達に比べ、なんと幸運なことか。
逃がした者は無事に逃げ延びただろうか? 返り討ちに合わなければよいのだが。
そう思い、願いつつプロールはあてもなく歩く。
せめて応急処置をしなければ、一生使い物にならなくなる。
敵に見つからない、物陰を探しやっと廃ビルの影に身を潜める。
腰をおろし、黙々とリペアしていると、予備コードが少し跳ねて落としてしまう。それを拾いに行くと見慣れた顔があった。
――既に事切れている。
うつ伏せのまま倒れている仲間に、プロールは唇を噛みしめた。
仰向けにしてやり、両手をクロスさせ死体が破壊されないことを祈る。
簡単なリペア作業が終わると、彼はふらふらとまた歩き出す。仲間と同じ場所にいるのは危険だと知っているからこそ。
視界がぼやけ始める。エネルギー切れが迫っているのをボディ全体で感じる。
1歩1歩が重たい。何トンもの鉛を背負っているかのように。
廃墟まであと数メートルというところで、プロールは前のめりに倒れた。
薄れてゆく意識の中、会話をする声が彼の聴覚機関が捕らえた。ただ、もう敵か味方かは判らない。
これで終わりだ、とプロールは意識を失った。
目(アイ)が醒めると、プロールはベッドの上に寝かされていた。
上半身を起こし、銃を構えつつ辺りを見回すと見慣れないトランスフォーマーが1人。
ベッドの下で寝台を背にこっくりこっくりと頭を動かしている。
青い頭部に赤いボディ。銃を片手に、そっと正面に回って見ると、両肩には味方のエンブレムが輝いていた。
「ん…」
空色のアイが光り、プロールは慌てて距離を取った。
「ああ、気が付いたか。良かった」
相手はマスクフェイスだったが、声に偽りはなく、おまけに無防備だ。拍子抜けしてしまい、プロールは銃をしまう。
「自己紹介がまだだったな。私はコンボイ」
「…プロール」
敵ではないと分かり、プロールは名乗る。そして直感する。このコンボイというサイバトロンは只者ではない、と。
「プロールか。いい名前だ。そうそう、君の怪我はラチェットが治してくれたんだ。あとで会わすとしよう」
「ラチェット?」
あの、医者が? とプロールは訳がわからなくなった。なぜ有名なドクターがこの見知らぬサイバトロンと共にいるのか。
ラチェットといえば、毒舌なマッドドクターとして名が知られている。
――噂をすれば、だ。
「司令官、彼は気がつきましたか?」
「おお、ラチェット。ああ、この通りな」
チラリ、とラチェットがプロールを見て2人の元へ歩いてくる。
「プロールというそうだ」
「よろしく」
「っああ…」
しどりながらも差し出された手を握り返し、挨拶を交わす。そして違和感を覚える。
ラチェットは先程、コンボイを『司令官』と呼ばなかったか? 彼はコンボイのグループにいるというのか。それならばコンボイの実力は『司令官』に相応しいというのか。
1つの軍にはリーダーがいる。あのデストロンを率いているのは、破壊大帝と呼ばれるメガトロンが。しかし、敵と違い元々非戦闘員が多いサイバトロンに、リーダーと呼べる者はいないに等しい。よって、一つのグループでリーダーを務める者がいた。プロールもその内の1人だったのだ。
だが、なぜドクターがこの見知らぬトランスフォーマーをリーダーだと認めているのだろうか。
「プロール。君さえ良ければ我々のグループに入らないか?」
「え…?」
突然、コンボイがそう言った。
一体、どういうことなのか尋ねようと口を開いたプロールより先に、
「バラバラに闘うより、ひとつのグループとして戦ったほうが安全だ。私はそう考え、今仲間を集めている」
デストロンは基本が戦闘員だ。戦いの上においては彼らのほうが上手。ならば数で、いや小さな力で立ち向かうことが得策だろう。
「答えはすぐ出さなくていい。ゆっくり休んでくれ」
決して無理強いはしない。相手の意見を尊重する、冷静な言動。
戦士として、並大抵ではないことを彼は感じ取った。
「…いえ。私はあなたの指揮に入ります。コンボイ司令官」
コンボイとラチェットは顔を見合わせ、「歓迎するよ」と手を差し伸べ、プロールもその手を返した。
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