戦っていてもそうじゃなくても、彼女が忘れられない。もっと近付きたい。その声で名前を呼んで欲しい。この腕で抱き締めたい。
「ちくしょう…なんであの女が…」
 リピートされるラチェットの声。
『医者にも治せない病気があるってことさ』
 頭脳回路のデータバンクがある文字を弾き出す。気付いた時にはアイアンハイドはボディと同じくらいに顔(フェイス)を染めていた。
 打ち払うようにかぶりを振った。ウーマントランスフォーマーは他にもいる。彼女よりもっと己の好みにあったウーマンが。
「なあラチェット」
「おや、珍しいな。怪我もしてないのに」
「怪我はしてる。…胸にな」
 居心地悪そうに、アイアンハイドはラチェットのアイを見ずに言った。
「胸? 内部破損でもしたのか?」
「違う…」
 傷など負っていない。ただどうしようもなく、握りつぶされそうなほどに痛いのだ。
「…ああ。それで?」
「お前、分かって聞いてるだろ」
 心配どころか楽しそうに聞く医者を、アイアンハイドはジト目でみた。
「…俺は、どうしたらいい?」
 両腕を組み、ラチェットは少し考えるふりをしてから口を開いた。
「治療方はただ一つ。告白すればいい」
 ズバリと言ってのけたラチェットに、顔まで真っ赤にしたアイアンハイドは口をぱくぱくとさせるだけ。
 言うはやすし、とは言ったものでブツブツと訳の分からないことを口にするアイアンハイド。
「なんだったら私相手に練習するか?」
「何を気持ち悪いこと言ってんだ」
「練習は必要なものだろう。いざというとき」
「戦場とは訳が違う」
 はあ、とため息をつきアイアンハイドは頭を抱えた。
「そうだな。やはりおたくはぶっつけ本番がお似合いだ」
 メモ用のバインダーを手に取り、ラチェットはすらすらとペンを走らせる。
「お膳立てしてやる。この日、時間厳守で基地(ここ)に来い」
「ラチェット…?」
「いいか、時間厳守だぞ」
 メモを受け取り、命令口調のスピーディーさに反論すらできない。厳守、と強調されては悲しいかな、軍人の性として守らなければならないと強く思ってしまう。
 アイアンハイドが退室したのを見計らい、ラチェットは通信回路を開いた。
「クロミアかい? 少し問診をしたいんだ。悪いが来てくれないかい」




 何を言えばいいか分からず、今日という日が来てしまった。
 遅れるだとかすっぽかすだとかできたのに、それは男として情けない。プライドが許さなかった。
(なんて言えばいいんだ〜!!)
 頭部を抱えうずくまりたい気分のアイアンハイドは近付く気配に、直立した。
 あの、ウーマントランスフォーマーだ。
「私に言いたいことがあるんですって?」
「あ、ああ…」
 どうすればいい? 君の瞳に乾杯とか1000万エネルゴンの輝きとか? ――古い。柄ではない。
 近くでアイに映せば眩しく見える。
 他人を寄せ付けない雰囲気に兼ね備えた大人の美貌…とでも言うべきか。
「好きだ」
 うじうじ悩んでも仕方がない。己の好きな気持ちを伝えればいいのだ。
「俺はクロミア。君が好きなんだ。付き合ってほしい」
 着飾った言葉はいらない。ストレートに伝えれば、それだけで。フラれたってかまわない。
「……悪いけど」
 ああやはりか。そう思ったのもつかの間、アイアンハイドは思わず彼女を抱き締めることとなる。
「私のほうが先に好きだったんだからね」

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