「今度組むことになったインフェルノだ。よろしくな」
「ファイアースターよ。よろしく」
ガタイのいい赤いトランスフォーマーの差し出した手を握り返す赤いウーマントランスフォーマー。
機械惑星とだけあり、空気が薄汚れた場所は乾燥しやすく、火の手があがりやすい。
今では戦場の火が絶えないが火災に対する消火チームは作られていた。
何度か編成が行われ、インフェルノの今度の相方はウーマントランスフォーマーだった。
これといった特徴はないものの、落ち着いた雰囲気に何事にも動じない彼女は消火チームの癒しでもあった。
書類整理しているインフェルノに、彼女はエネルゴンティーを運んで来た。こういった気配りができるのも彼女の魅力のひとつだ。
「今回は小火ですんでよかったわ」
「本当。気をつけてもらいたいものだよ。…お?」
書類の1枚を手にとり、インフェルノはくすりと笑うとファイアースターに渡した。
「なに?」
「見ろよ。ホイルジャックのじいさん、2日連続でラボ爆発させてる」
「あら…」
マッドサイエンティストと噂される科学者。何を研究しているのかは誰も知らない。
しかし頼まれれば確実に成果を上げるため、良くも悪くも科学者達の間で有名だった。
だが、実験に失敗は付き物で、こうして爆発を頻繁に繰り返し消火チームから厳重注意を受けていたのだ。
「あのじいさんも、よくもまあ懲りないよな。笑って次の実験に取りかかるんだから」
書類をインフェルノに渡し、ファイアースターは微笑んだ。
「どこの星かは忘れたけど、『失敗は成功の母』と言うらしいわ」
「どういう意味だ?」
「何度も失敗を繰り返してこそ実験は成功する。一度で成功したって偶然かもしれないから、何度でも挑戦すべき…だって」
「なるほどね。けど大火事を起こさないうちに止めてもらいたいがな」
「言えてるわ」
2人は顔を見合わせていたが、しばらくして笑いあった。
チーム変動は少なく、インフェルノは異性の相方を、相棒だとか友人だとかそんな気持ちを持てなくなっていた。
本人自身、気がつかなかったけれど。少なくとも、特別な気持ちでいることは確かだった。
そんなおりに、大規模な火事が起きた。戦火による災害だ。
消火チームは直ちに現場へ駆け付け消火と救助を行なう。元々大きな街だったようで火の手が周るのが早い。
救助されたトランスフォーマー達はただちに応急処置を受けて治療場へと運ばれて行く。
ジュウジュウという音に黒焦げとなり瓦礫と化した建物のみとなった頃、消火チームは退却していく。
いつまた攻撃を受けるか分からないからだ。
「ファイアースター?」
最後まで仲間達を見送っていたインフェルノは相方がいないことに気づき、まだ現場検証でもしているのかと、仲間の一人に遅れる
と伝えて探しに行く。
「ファイアースター! どこだ!?」
1km先に探していた彼女を見つけ、インフェルノは胸をなで下ろす。
「ファイアースター、何をしてたんだ」
「ごめんなさい。大事な物を探してほしいって頼まれていたものだから」
「消化後は崩れやすい。それは判ってるだろう?」
「ええ…でも、2度とここには来れないかもしれないのよ」
俯くファイアースターにインフェルノは何も言えなくなってしまった。一度襲われた街は放っておかれることが多いが、柄の悪い奴らが
生き残りを探し殺しに来る事もあるのだ。そんな奴らに見つかればただではすまないだろう。
「その大事な物とやらは見つかったのか?」
「ええ」
これよ、とマイクロチップを見せる。よくそれだけ小さなものを見つけられたな、と感心する。普通ならばあきらめてしまうところだ。
「じゃあすぐ戻ろうぜ。崩れないうちに」
「そうね」
一歩踏み出したとき、ファイアースターがいた所の天井がぐらりと揺れた。
「っ、ファイアースター!!」
インフェルノは急いで彼女の腕を掴み引っぱる。
「きゃあ!」
ファイアースターはインフェルノの胸に飛び込み、彼女がいた場所に天井はガラガラと音を立てて瓦礫が落ちる。
後一歩で下敷きになるところだった。
「あ、ありがとう…」
「なーに、お安いご用さ」
救助が俺の仕事だからな、と笑うインフェルノにファイアースターは顔を赤くする。
その姿を見てインフェルノは今の現状を確認し、慌てて彼女を離した。
お互い、まともに顔が見れない。
インフェルノは気づいた。この感情がなんなのか。
「えっと、その…」
なんと言えばいいのか。言葉が見つからない。全く、こう言うことに関しては不器用な己を責めたくなる。
「き、君さえよければ…その、…俺と、付き合って、くれない、か…?」
もっとハッキリ言えよ、と自己嫌悪に陥る。しかしそんな煙すらも
「…もちろんよ」
という彼女の一言で消されてしまうのだった。
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