ひと握りほどの大きさの隕石。それを摘出し、尋ねられたことに答え「専門家」を呼んだ後。
 奪うようなかたちで貰った液体を半分よりも少し残して、体調不良を訴えていたデストロンのリーダーは造られたばかりのように光り輝いていた。
 さらに「専門家」を人質にサイバトロンを痛めつける作戦を結構する。
 そこに、デストロンのナンバー2の姿はなかった。

 サイバトロンの科学者であるパーセプターが開発した薬「サビストップ」を使い、宇宙サビの餌食から逃れたメガトロン。感染したのは彼だけではなく、その病原菌の元である隕石を摘出したスタースクリーム、増殖させるための強いエネルギーを発するレーザー蛍を運んだアストロトレインやらその場にいたデストロン達にも広がっていた。
 残り少ない「サビストップ」をどう使い分けるか小さな火種が起きていたが、次々と体調不良で倒れていく。
 さすがというか、元々科学者でもあったスタースクリームだけは、気力だけで痛むボディに鞭を打ち「サビストップ」を調べていたのだが。
「銀河エキス…希少な液体じゃねぇか。それも半端ねぇ量使いやがって…」
 ペンチのような腕で抽出した隕石はメガトロンの手によってサイバトロン基地にある。しかし、触り彼の近くにいたスタースクリームは誰よりも感染が早く進行も早かった。ふらつく足をふんばり、ともかくも完成品を赤黒い部分へと塗っていく。
 サビストップに使われている銀河エキスは、ほとんどといっていい。作るにしてもこれが無ければ話にはならない。けれども希少な液体はもう残っていないだろう。
「くそっ…これじゃあ全員分足りるかどうか…」
 感染者は最小限にとどめられたが、いかせんデストロンには大型のトランスフォーマーが多い。その分感染範囲も広いだろう。
 微調整しながら使っていくしかない。
 そこに来訪を知らせるブザーがなり、確認用のモニターに群青色のトランスフォーマーが映った。

「なんだよ、サウンドウェーブ」
「分析ハ済ンダノカ?」
 紅色のバイザーを光らせながらも、淡々とした口調でサウンドウェーブは尋ねる。
「はん。俺様を誰だと思っていやがる? とっくの昔に分析済みだぜ」

「作レソウカ?」
「作れるか、だと?」
 問いにスタースクリームはアイを細くさせた。原材料の銀河エキスはもう残っていないはずなのだ。
 要となるエキスがないため、作ることは難しいだろう。いや、不可能だ。
「…無理だ」
 渋々、作れないことを伝える。分析ができても、作ることは不可能だと。スタースクリームにとって、できないことを認めるにはプライドが許さなかったが、事実はそうなのだから仕方がなかった。
 あきらめて引き返すかと思ったのだが、サウンドウェーブは有無を言わさずドアのロックを解除してスタースクリームの許可も得ずに研究室へと入った。
「お、おい!」
「残リハ、コレダケカ?」
 サビストップの入った試験管を持ち上げ、少量の液体を揺らすサウンドウェーブ。
「ああそうだよ! ってか何勝手に入ってきてんだ! 宇宙サビが移るだろーが!!」
 スタースクリームのサビは、完全に取れてはいなかった。多少動けるように少ししか使っていなかったからだ。
「エキスはそんなけしかねぇんだよ! これ以上感染者を増やしてどうする!?」
 彼にとって他のデストロンなどどうでもいいはずだが、全滅しては困ると考えているのかメガトロンに命令されたからなのか、ここまで想いやるというのも珍しかった。なんだかんだいっても、ナンバー2の位置にいるだけはある。
「…解析完了。洗浄用シャワーヲ使エバ、コノ量デモ充分ニ足リル」
「……は?」
 液体をスキャンしていたかと思えば、サウンドウェーブはさらりと言ってのけた。
 ボディの汚れを洗い落とすトランスフォーマー専用のシャワー。戦闘などで汚れた体(ボディ)に傷がつかないように、隙間から異物が入らないようにするもの。それを使えば事足りると言うのだ。
「混ゼテ薄メテモ問題ナイ」
「お前っ…!」
 人が苦労して時間をかけて調査したものを、意図も簡単に解析されては文句のひとつも言いたくなる。しかし、二の句を継ごうとしたスタースクリームにそれは叶わなかった。
 がくり、と膝を折る。
 サビストップを塗っていない場所から、どんどんと赤黒いものが広がっていく。
「ちくっしょ…ガタがきやがった…」
「洗浄用ボトルニ入レル。先ニ浴ビロ」
「…まあ、俺様が一番最初にシャワーをするのは当然だわな」
 ダメージが広がっていくのにも関わらず、憎まれ口を叩くのは流石と言うか何と言うか。サウンドウェーブはバイザーとマスク越しに呆れた顔で、スタースクリームを立たせる。そして、そのまま手を引く。
「自分で歩けるって!」
「足元ガ危ウイ。ルームマデ連レテ行ク」
 幸いなことに研究室にはシャワールームが設備されている。危険度の高い合成物質などの液体を浴びてしまった場合、即刻落とさなければならない。そういう点も踏まえて作られているのだ。
「シャワーヲ浴ビタラ、少シ休メ。宇宙サビノ後遺症ガデテ出撃ハ不可能ダ」
「はん。俺様をなめるんじゃねぇ。とっとと出てサイバトロンどもの焦る姿を見てやるよ」
「…後ノ感染者ヲ治サナケレバナラナイ。命令ダ」
「ちっ…」
 命令とあらば待機するしかない。もちろん無視しても構わないが、うっかり感染者の待機するルームに他の者が入ってしまえば、今度こそ対処しようがない。
「俺が入ったあとはお前が入れ。いいな、絶対だぞ!」
「了解」
 心配だから、とは決して言わないが、ブレインスキャンをしなくともサウンドウェーブにはスタースクリームの気持ちが分かっていた。プライドが高く素直ではないが、仲間思いの一面もあるのだ。
 すぐつけあがる癖さえなければ彼がリーダーかもしれないのに。そう言えば悪い癖がでるだろう、と群青色のトランスフォーマーは黙ったまま、デストロンのナンバー2をシャワールームへと率いた。

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