わずかに聞こえる冬定番の音楽。
今頃は都会の華やかさに混じっていただろうに。
「なぁ〜んでこうなっちゃったかなぁ…」
ぽつりと呟いた声は空洞へと飲み込まれていった。
たとえ真っ暗であろうとライトを点ければどうということはない。ただ、少しでもエネルギーを押さえるために点けずにいれば、しだいと目(アイ)も慣れてきた。と同時にむなしさが広がってくる。
「大体さー、なんでこんな日に出てくるわけ?」
ガシャ、と詰め寄れば相手は何も言わない。数秒待っても答えてくれそうになく、また元の位置に戻る。
2年以上も住めば慣れたもので、サイバトロン軍は地球の慣わしにならって、祝日休暇となった。敵さえ出てこなければ暇だろうと言うつっこみは誰からも来ない。
聖なる日でありながらのお祭り雰囲気に、もともと民間用であった彼らは大いに喜んだ。その中で、いつもハイテンションでそれが玉に瑕(きず)なブロードキャストも、意気揚々とお気に入りのニューヨーク市街へと足を運んだ。
ところが、緊急無線でデストロン出現を受け、駆けつければいつものように取っ組み合いだ。
ライバルであるサウンドウェーブに飛びかかるのもお約束。そして、誰かが避けたのかはたまた狙い損ねたのか分からない弾が地面へと落ち、地盤が崩れ、地下へと落ちた。
「うわあああ!」
「ブロードキャスト!」
仲間の声になんで俺っちが、と内心思っていた。落ちるのは司令官の役目じゃなかったのか、とも。
背中から強打し、起き上がり見上げれば、瓦礫(がれき)の山で穴はほとんど塞がれていた。わずかに外からの音がもれて聞こえるだけだ。
「うっそーん…」
少し離れた先でむくりと起きあがったサウンドウェーブに、戦闘態勢をとるもやる気が起きず、地下にまで落ちてきた瓦礫の山へと腰をかけた。
ニューヨークの地下は広い。下手に動くよりもこの場にとどまって救出を待った方がいい、との判断だった。
どれくらい待っただろうか。もれて聞こえる音楽だけでは正確に計れない。何しろ1曲1曲を繋ぎあわせてある。平均4分から4分半をいくつも流し、時には5分を越えるものが聞こえてくる。断片的に聴こえるそれだけでははかれないのだ。
「…祝日ダカラダ」
「へっ?」
少し間をあけて座っていたサウンドウェーブが、マスク越しに答えた。
さきほどの問いかけか、とブロードキャストは彼を見た。
「人間達ハ浮キ足立ッテイル。今日ハ警備モ手薄ニナルカラナ」
「日付なんかお構いなしのくせになんで今日!?」
強奪しようと思えばいつでもところかまわず出撃してくるデストロン。確かに警備が手薄なところを狙ったりして、大帝自らが潜入したとも聞いた。だが、いつもは白昼堂々、平日休日関係なしだ。
じゃり、と舗装されていない地面が音を立てる。
青と白の腕が伸びてきて、ブロードキャストの首に周り、ぐっと引き寄せる。
刹那。
腕が放されたと思えば、何をされたのかとブロードキャストは目を点けたり消したりする。
「ソウイウ口実ニシタライイダロウ?」
サウンドウェーブの赤いバイザーが、暗闇だというのにキラリと光った。
ゆっくりと口元に手を当て、ライバルである彼を見てもそこには白いマスクが変わらずにある。ブロードキャストは顔に熱が集中するのを感じた。
確かに、今日は。確かに、そういう日だ。
いつの間にか、サウンドウェーブはブロードキャストのすぐ隣に座りなおしていた。
今頃上では共闘という名の穴掘り作業が行われいるのだろう。こんな暗いところで甘い雰囲気になっているとも知らずに。いや、少なくともサイバトロンは知っているだろうが。
「…も、ずるい」
ブロードキャストは、顔はわかりにくくとも赤くなっているだろう。それを見られたくなくて、膝を抱えるようにして顔を埋めた。
すっ、と明かりが差し込む。慌しい声に顔を上げれば、もう少しで1人くらいは抜けられるくらいに開いていた。
「行クゾ」
立ち上がったサウンドウェーブは、青い手の平をブロードキャストに差し出した。デストロンは空を飛べる。ロープや飛行能力を持った仲間を待たずに出るには、この手をとるしかない。
敵としてなら決して取らないところだが、まあいいかと黒い手を乗せた。
「サウンドウェーブ、メリークリスマス♪」
「……メリークリスマス」
地下から抜け出せば、敵同士。抱えられるようにして出ていけば、サウンドウェーブはブロードキャストに銃をつきつけ、抱きしめられていた彼は弱く肘鉄を打った。