孫は、運命の選択を迫られた。
 幼き頃から指導し続け、士官学校を優秀な成績で卒業した。
 実の孫に選択を与える時が。

 少年は、実父を嫌い続けた。
 容姿の元となった父親に刻み込まれた傷とエンブレム。
 納得できず嫌うしかなかった。

 

 青い惑星・地球に派遣される事になったのはつい、数日前。
「オーバードライヴさん、ホイルジャックさん!」
 黄色をベースとした配色の服を着た青年は、2人の男のもとへと駆け寄った。
「久しぶりDANA!」
「ご隠居ハドウシテイル?」
 男たちは軽く手をあげたり、頷いたりして応えてやる。
「お久しぶりです。爺なら隠居生活を楽しんでいますよ」
 青年はぺこりと頭を下げ、ひとりの男の問いに答えた。
「地球に派遣されるんだってナ、楽しみDARO?」
「そうですね……でも、僕は任務で行きますから半分ってところです」
「お気楽なお前とは、大違いだな」
「ナンダヨ、ホイルジャック! 人がノンビリ屋みたいに?」
「本当の事だ」
 くすくすと青年は2人のやりとりを見て笑う。変わらないな、と。
「トコロデ……」
「……?」
「一緒に行く奴は、居るのか?」
「……」
 青年は首を横に振った。
 そして伝える。自分の運命を。
「……オーバードライヴさん、ホイルジャックさん。僕は……“コンボイ”の名を頂きました」
『……!?』
 男ふたりはその言葉に目を見開いた。
「“スペースブリッジ計画”の鍵(キー)となる“プラネットフォース”の1つを、封印及び護るのが私の役目……。地球への派遣はそれです」
 祖父は言った。
 決して軽いモノではないと。
 頂点に立つ者の”その名”は。
「いずれ……”プラネットフォース”を使う日が来る。貰いに来る、奪いに来る者達が……“刻”(とき)は必ず来るのぢゃ……ライブ。お前さんは今、“刻”の始めに立って居(お)る。決めるのはお主自身ぢゃ」
「爺(じい)……」
「ワシは2人、知っておる。2人とも別々の“刻”を選んだ。自分の運命は自分で決める事ぢゃよ」
 老人は孫の頭を撫でてやった。

 

 走る事で全てを忘れているしかなかった。
 過去がどうした。ならば何故戻らなかった?
 オートボルトは実の父を嫌っていた。
 元サイバトロンの、デストロンの父を。
 何故サイバトロンの母は父を好きになったのだろう。愛したのだろう。
 理由が、分からない。
 サイバトロンに生まれた事が彼にとっては唯一の救いであった。
 戦闘レベルは高く、『ハンター』と呼ばれるほど。彼の次任務は地球への派遣だった。
 いつものコースを走っていると、灰色のスポーツカーが駆け抜けていった。
 噂は聞いたことがある。見たい、会いたいと思っていた人物。
 父の、親友。
「ま、待ってくれ」
 半ば反射的に叫び追いかけていた。
 スポーツカーはサイドミラーに映ったオートボルトの姿に、止まり変形した。
 カウボーイ姿の男は、息切れして呼吸を整えているオートボルトを凝視していた。
「……ランページ?」
 顔を上げると、黄土色の髪に青い瞳をした男性が己を呆然と見ている。
「あ、いや……人違いだ。すまない……」
 一度会いたいと思っていた人だった。
「貴方が間違えるのも無理はない。俺はオートボルト……ランページは俺の父です、ホット“ロッド”さん」
 また、男性は驚いた。
「ああ……今はホット“ショット”さんでしたね。失礼しました」
「構わないが……君はランページの……」
「息子です。まあ、この通りサイバトロンではありますが」
 突然の事にホットショットと呼ばれた男性の思考回路は状況を整理できなかった。
 親友そっくりの、親友の息子。

 ライブコンボイは事前に調査しておいたスキャンデータから救助ヘリを選び、スキャンした。
 ヘリを選んだのは爺への憧れがあったかもしれないと胸に思い。
「そろそろ時間か……」
 データバンクルームを退出する彼の手には“プラネットフォース”が握られていた。

 

 それでも父は嫌いだ。彼が父だったらどんなによかっただろう。
「ま、人それぞれだよな。お前以外にも父親嫌いのヤツ、知ってるから」
 今頃、何をしているのだろうか。
「アイツは……幼い頃のトラウマもあって、反抗期真っ只中だったせいなんだけどな」
「……人間、ですか?」
「ああ。でも司令官にとっちゃ息子みたいで、俺には弟みたいな存在だ。司令官の息子ってのはアイツが認めてるから、あながち間違ってないな」
「………………」
「ランページにはランページなりの考えがあるんだろ。俺はヤツが無事ならそれでいい」
「ですがっ……」
「お前の母親はなんでランページと結婚した?」
「……」
「あいつの真偽を見たからだ。だからお前を生んだ。違うか?」
 解らない。判らない。
 けれどわだかまりは少し取れた気がする。
「答えを急ぐ必要はない。ゆっくり考えればいいさ」
 こういった所が、士官生達の憧れとなるのか。
 そう思うと納得した。
「いずれ出てくるさ。答えのない問題なんてない」
 サイバトロンとデストロンのハーフである事実を、それとなりに気づかされた。
 去っていった親友の息子の背後姿を見つつ、ホットショットは呟いた。
「……エクシーもオートボルトと“刻”が来たら、会うのか……」

 

 北極と呼ばれる場所に2人はいた。

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