砂利を 土手を 河沿いを
見上げれば映る 桃色の華
そなたは高貴なヒト
短き命 五十夜生きて
衰えぬ素肌 ああ


 長いトンネルを抜けて、2人は立ち止まった。
「綺麗でしたね、ギャラクシーコンボイ総司令官」
「ああ。やはり地球はいいところだな」
 振り返り、ドレッドロックは連なるアーチを見ながら
「今度はみんなで花見をしに行きましょうか。無礼講で」
 と言った。
「ふむ。どんちゃん騒ぎもいいかもしれないな」
 ギシュ、と頷きギャラクシーコンボイは答える。それに少し慌てて副司令官は「節度は守ってもらいますかね!?」と答えた。
 ばつの悪そうな顔をして総司令官は手を離し、ドレッドロックの羽へと手を伸ばす。
「総司令官?」
 払いのけるような仕草をしたあと、ほらと花弁を見せてやる。
「君の羽に桜の花びらがついていたんだ。綺麗だったんだが、邪魔になると思ってね」
 そんな事はない、と断ろうにも優しく微笑まれては返す言葉もない。何より“綺麗”と言われてしまっては。
 何も答えられず、ドレッドロックはうつむいてしまった。
「ドレッドロック」
 名を呼ばれ顔を上げると、桃色の花が差し出される。
 何かと顔を見ると苦笑して
「君に似合うと思ってね」
 と言った。
 細い茎に2つみっつほど花が咲いた、小さなもの。
「染井吉野という桜らしい。一般的な品種で、受精しない花だ。だからこうして幹からも咲くのだろうな」
 受け取ったことを確認して、そばにあった枝を持ってギャラクシーコンボイは言い、再び空を仰ぎ見る。
 ざわざわと花々が揺れ、花弁を散らす。それはいつのまにか雲のない青空へ、判を押していく。

ひらひら 舞う花びら
ふわふわ 浮かせよ風
ぱしゃぱしゃ 遊びし鳥
太い幹 照らすのは昼の月


「ドレッドロック。そろそろ帰ろうか」
「そうですね、ギャラクシーコンボイ総司令官」
 もらった花をそっとコクピットへ入れ、ドレッドロックはギャラクシーコンボイに続いて変形(トランスフォーム)した。


砂利を 土手を 河沿いを
見上げれば映る 桃色の華
そなたは美しきヒト
短き命 百夜生きて
衰えぬ素肌 ああ



 ――染井吉野の花言葉:優れた美人 

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