「自分は――…」
じっとホットショットはロードバスターの顔を見る。視線に耐えられず、ロードバスターは俯いた。
「自分は――…戦えません。いくら自分の意思でデストロン(敵)になったからといって、味方だった者を…」
「そうだな」
ガシャリとホットショットはロードバスターの頭に手を置き、撫でた。仲間だった者を傷つけたくないという優しさを彼は持っている。
「だが、戦わなければ分からないこともある」
撫でていた手を離し、顔を上げた後輩と視線を合わす。
「戦わずに済むなんてことは、ないんだ」
その言葉は自らに言い聞かせるように、強くはっきりと言った。
炎の光景が、ホットショットの記憶回路をかすめる。
白は黒く染まり、赤は包まれ紅を残す。
「俺は、自らの意思でデストロンとなった親友と、戦った」
胸部のサイバトロンエンブレムには右斜めに一本傷が入り、その下には小さなデストロンエンブレム。記憶していた白のボディカラーは黒く染まり、両手首にははっきりと紫が輝いていた。
炎の中で生死不明だった、助けられなかった、親友。
「あいつは地球で、デストロンとして俺の前に現れた。俺はあいつを助けられなかった償いとして死を覚悟した。だが、あいつはそれを望んでいなかったんだ。拳を交わして分かった。戦うことでしか分からないこともあるからな」
親友はデストロン破壊大帝にその命を救われ、忠誠を誓った。自らの意思で、サイバトロンからデストロンになったのだ。
「……」
「今回は強制だった。それに俺は直接インフェルノの死を見たワケじゃない。状況は違えど、仲間を失うのはつらい」
「ホットショット殿…」
ホットショットは正面を向き、青色のアイを一旦消した。
自らの意思でデストロンとなった親友。自らの意思ではなくデストロンとなった親友。
後者は作戦として、自らの意思でなったが。他に使える手立てがあれば、なることもなかった。
死んだと思っていた友人が敵として現れた。敵となった友人が、一時的とはいえ死んだ。
戦いに身を置く上で“死”というものはついて回る。ホットショット自身、何度も経験してきたから分かること。
アイを再び点け、ロードバスターの顔を見る。
「さて、行くか」
そう言って腰をあげる。少し戸惑いつつも返事をして彼も立ち上がる。
本題はここからだ。
スペースゲートを通り、サーキットプラネットへと着く。
ビークルモードからロボットモードに変形し、目的の地まで歩いていく。
「戦いの中で、拳を交わすことでしか分からないこともある…」
しばらく歩き、目的地が見えてくると
「ロードバスター。そろそろスタート地点だ」
訳が分からない、といった風体の後輩の方を振り向き、
「レースもな」
と言った。