声に気づいて教わったことを頭の中で復唱する。
的が、壊れた。
「よし。定期的に練習すればすぐ上達するだろう」
スッとグランドコンボイが離れると鼓動はおさまり、逆に切なく痛みつけられる。
「お前は射撃が上手かったからな」
それだけではない、とグランドコンボイは言いたかったが、飲み込んだ。
記憶のない彼を戸惑わせてしまうだけだと思い。
――ひとつは、“射撃の名手”と呼ばれた彼の腕が無経験になってしまったこと。
もうひとつは…。
コントロールルームに戻るとお茶の準備がすでにできていた。
「少し休むか」
グランドコンボイがそう言うと、各々の仕事をしていたそこにいたメンバーは適当に座っていった。――自然と隣になる相手が決まってしまったが。
ロードバスターの隣にはホットショットが、スカイファイヤーの隣にはラディバックが、。そして、グランドコンボイの隣にはインフェルノがそれぞれ座った。
「コンボイ司令官、どうでした?」
ホットショットの問いに、机に置かれたティーカップを持ち上げながら
「練習を少し必要としてるな。実戦はまだ無理だろう」
と答えた。
「そんなスグには実戦なんて起きませんけどね」
「気楽だな、ホットショット。平和ボケしてるんじゃないか?」
マスクをはずし、にやにやと笑いながら言うスカイファイヤーにホットショットはひょうひょうと答える。
「副司令じゃないんですか、それは。さっきもラディバックを…」
「ちょ、ちょっと待て!」
冷や汗をかくスカイファイヤーにみんながクスクス笑った。
インフェルノもつられて微笑む中、ラディバックだけ無表情でフーセンガムを膨らませていた。
同日地球時間午後十一時。
司令室にスカイファイヤーが入って行った。
「未だに手がかりはなし。範囲を広げつつありますが、当時のインフェルノがどうしてそこに行ったのか、彼のルートを探る必要があります」
「…その日は確か…時間帯はわかるか」
「はっ。地球時間でおよそ夕方六時くらいだと」
「夕方六時…午後は非番だったな。セイバートロン星の内部を少し見に行きたいと言っていた…。だが、まさかこんな事になるとはな…」
両肘をつき、指を絡めうつむくグランドコンボイにスカイファイヤーはかける言葉が見つからない。
単なる散歩が、悲劇を産むなど誰が予想しただろうか。
「司令官…」
「地球には狼という動物(ビースト)がいるらしい。黒い狼を見かけたら捕まえるようウイングセイバーに言っておいてくれ。インフェルノのメモリーブロックを取った者はビーストモードでいる可能性が高い」
「ハッ」
直立し、敬礼するスカイファイヤー。
退室際に、
「早く…戻るといいですね…」
と言った。
背を向けたグランドコンボイは「ああ」と短く応えた。
―必ず、取り戻す―