狼の死神は、ラディバックに走り屋時代勝負した時の事を根に持ち、彼に何度か襲撃したが、彼はどういう理由(ワケ)か強運の持ち主で失敗続きだったのだ。
 そんな時、デストロンの破壊大帝がいなくなったと聞いて、自分がリーダーになろうとした。そのためにはサイバトロンが邪魔だと。
 グランドコンボイ自身を狙うのは簡単だが、それでは面白くないとチームコンボイ、サイバトロンの中で誰かを襲うことで精神的に弱らせようとした。
 狙いと非番の日が重なり、インフェルノが襲撃された。メモリーがなければ誰が自分を狙ったのか、自分が誰で何者か、わからない。だからメモリーを奪ったのだと。
「卑劣なヤツだな…」
 ロードバスターの部屋でキッカーは呟いた。
「ああ。全く持って許せねぇ奴だったぜ」
「で、その狼の死神はどうしてんだ?」
「特別監獄室直行だ」
 怒気を含んだ口調でロードバスターは答えた。
「レーザーウェーブ並か、以上の最低最悪のトランスフォーマーだ。…ヤツは」
 ジャラジャラとした強度の強い鎖に両腕、両足をドゥームウルフは繋がれ拘束されていた。


 ドゥームウルフが捕まった日の夕方。
 再びM63D59ポイントの一角に、インフェルノを引き連れてグランドコンボイは訪れていた。後ろを振り向いて相手の顔を見る。
「……私、好きになってしまったんです…貴方を。同姓で上司である貴方を…」
「…………」
「記憶が無くても心が覚えている…私は、貴方と付き合っていたのですか?」
「…ああ」
 気づいてしまったか、と。愛する者からの告白。
「記憶がこのままない私では…好きになってもらえません…。私には過去のデータがない…」
 大声で違う! と叫びたかったが押さえる。
 失くしてしまったもうひとつの大切な記憶。それはグランドコンボイと恋人同士だということ。
 同性だからこそ悩むことがある。不安はつきまとうものだ。みながみな、応援してくれるとは限らないのだから。――仲間達はそんなことはなかったが。
「自虐するな、インフェルノ。…私との思い出がないのは辛いだろう。しかし、過去がないのならば作ればいい。入院中から今日起こったことが明日になればそれは過去の事だ。過去のない未来など、ありはしないのだから」
 そっとインフェルノを抱きしめるグランドコンボイ。
「君は君だ。――今からメモリーを入れる。サブに切り替えてくれ」
「……」
 言われるがまま、インフェルノは瞳を瞼の裏に隠した。

 

―愛しています、総司令官―

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