脅されるままに部屋に戻ったグランドコンボイは、仕事の続きをしようかとも思ったが、書類がないため、仮眠をとることにした。
 ふと目が覚めれば、仕事机には2列ほどさきほどの書類の束が、来客用の机に3列ほど並んでいる。そして、しゅんしゅんと鳴る音。
 2列並んでいる仕事机ではなく、来客用の方に座ればインフェルノが姿を現した。
「副司令に頼んで監督させていただくことになりました」
 彼の手にはポットとティーカップが2つ。ことり、と机に置かれる。
「見張り、という訳か。無理をすることはないんだぞ? 今日は君も指導だっただろう?」
「司令官ほどではありません。むしろ、あなたの方が倒れそうだったんですから」
 相変わらず無茶をする、と半ばあきれ気味に言う彼にグランドコンボイは苦笑し、紙を一枚手にした。
 サーキットプラネットで観測よりも遊ぶ偵察員が多い、との報告だ。確かに、あそこは星全体がレース場となっている。観測とかこつけて、遊ぶには十分な場所だ。
 苦笑しつつ、左手前側に置く。チャ、と紙束の隙間を縫うようにソーサラーの音が鳴った。
 紅茶の入ったカップが置かれている。
「仕事机(コマンダーデスク)に置いてあるのが、処理済の書類です。ゆっくりでいいですから、時折小休憩を挟んでくださいね」
 そうインフェルノは言いながら、己のカップの中をティースプーンで混ぜながら砂糖が入っているだろう瓶に手を伸ばす。
 コーヒーではないのは、彼なりの気遣いなのだろうかと思いつつ、そっと持ち上げて飲む。
「ん…?」
 あまり紅茶は飲まないが、さすがに味の変化にまで疎いというわけではない。砂糖とは違った甘味が、口の中に広がっていく。
「インフェルノ、何を入れた?」
 ミルクを注ぐ彼に尋ねれば
「蜂蜜(はちみつ)です」
 と微笑される。
「蜂蜜…?」
「疲労回復にいいんです。…少し、甘かったですか?」
 確かに甘かったが、気にするほどではなかった。
「いや、大丈夫だ。ありがとう」
 こくりと頷き返したのを見て、再びグランドコンボイは書類の束に手を出した。
 彼がいれば仕事の途中で倒れ、医療班に迷惑をかけてしまうこともない。つくづく、己の非を思い知らされると同時に心配をかけてしまったことに罪悪感が生まれる。
 不謹慎だが、こういった残業も悪くはない、とグランドコンボイは思った。

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