終わるのか終わらないのか分からないチェロの曲が部屋に流れ続ける。
沈黙を破っているそれに私は逃げ出したい衝動に駆られた。何故司令官とキスしただけでこんなにもドギマギしてしまうのか。それは彼も同じらしく、壁の方へ顔を向けて私の膝に頭を置いていた。
と、曲が変化した。私は近くにあったリモコンでプレーヤーを停止させる。おそらくCDを聴き続けても、今の私達には感想を言い合えることは出来ないだろう。
「司令官、ファイル整理はいいのですか?」
サイバトロンのリーダーである彼には久し振りの休暇だ。その間は次の仕事が出来やすいようにいくらか書類を整理する。合間にCDを見つけ、私に聞かせるためにこの部屋に来たのだ。つまり、整理はまだ終わっていないということ。
「今日はいい…それよりも、お前も疲れているのではないか?」
「少しだけですが。どうされたんですか、あなたらしくもない」
途中放棄などするような人ではない。
「ここのところの疲労が一気に出てしまったようだ…体が重い」
気だるそうに言う声から予想してもそれは嘘ではないと分かり、私は彼の髪をなでた。
「分かりました。使ってくださって結構ですよ」
勿論ベッドの事だ。疲れているときには甘いものを取るか、寝るのが一番良い。ブラック派の司令官に、甘党である私が持っている飴などをあげても、疲れはとれないだろう。彼には甘すぎるからだ。
「ん〜…、すまない…」
「…本当にお疲れなんですね」
膝から頭を上げたと思ったらぐりぐりと私の腹へこすりつける。しっかりと腰を支えて。
甘える司令官など、滅多に見ることがない。
「…………」
ぐりぐりと埋めるように動いている頭をそっと撫でる。するとぴたっと動きが止まり、顔を近づけてくるとまた触れるだけのキスをして私をベッドへゆっくりと押し倒した。
「疲れているのだろう? 一緒に寝ないか」
「……は、い」
断る理由もないし、何よりこの恰好では抵抗は無意味だ。
誘いに私は素直に応じる。実際、添い寝はよく眠れないのだが…。
その後、ダブルサイズのベッドに置かれた枕に司令官の頭が、私の頭は司令官が右手を伸ばしてくれた、右腕に乗せていた。
「インフェルノ、愛してる」
不意打ちだった。
顔を見合わせる形でいざ眠ろうとした時に、そんな台詞を言われたら、余計に寝れなくなる!
「〜〜っ!」
顔の熱が一気に上昇し、熱くなった。目線を落としてかちあわないようにする。ただでさえ真正面にマスクを外した司令官の顔があるというだけで、緊張してしまうのにあのような言葉を言われたら…彼は左手で私の髪をすいた。
目線を上げてほしいのだろう。司令官は私の顔を見ながら寝たいと前におっしゃっていたからだ。
「インフェルノ」
何時もより低音で、優しく私の名を呼ぶ。私は仕返しとばかりに目線を上げると、すぐさま彼の唇に自分の唇をあて、放すと俯いた。彼の顔が見えなくとも、呆然としているのは分かっていた。私からはあまりしない。
「寝るのでしょう?グランドコンボイ」
「〜〜ッ!!」
頭を上げ軽く笑えばギュッと抱きしめられ、緩くなったと思えば目を閉じて寝てしまわれていた。
身を寄せ、私も瞼を閉じた……。