「…マジか?」
「聞き返すなよ…」
 ベッドの上でロイドの背中から抱きついたまま、ゼロスはうつむく。
 ロイドからは表情は見えないが彼の体温から赤くなってることは、容易に想像できた。
「じゃ、なんでお前…」
「お前らが勝手に想像してくれたからよ。俺さまはなーんにもそれだ、とは言ってないぜ」
 そういえば、と思い返す。あの時は女性陣が勝手に頬を染め、リーガルすらゼロスの女癖から問おうともしなかった。
 ゼロス自身が“それ”をしていないなど、誰一人として疑わなかったのだから。
「そっ…か。俺、てっきり…」
「そう思っといてくれた方が、こっちも何かと便利だったんでね」
 世界統合前、スパイとして潜りこんでいたゼロスは形はどうあれ、疑われられずにすむというものだ。
「じゃあなんで言ったんだ?」
 黙ってれば、恥ずかしい思いをしなくてすむはず。
 元よりそういう方面に鈍いロイドに経験はない。せいぜい諫(いさ)めるといった初期段階だけだ。
 彼と違い、ゼロスは機会が多くあったはず。それなのに。
 ぼそりとゼロスが呟いた。けれど何を言ったのか分からず、ロイドは首を傾げる。
 ずり、と赤毛が動き、抱き締めていた腕も離れ、背中に頭部が押しつけられた。
「嫌だったんだよ…躰(からだ)だけの関係が」
 ぽつり。
 小さく、低い声が弱々しく紡ぎ、ロイドは思わず後ろを見た。
「性欲処理のために抱くことなんてできねぇ。本気でもない奴等なんて、抱くことを考えるだけでも反吐(へど)がでる」
 中にはそうしないと生きていけない者もいるけれど、己はそんな人にも手を貸すほど優しくない。
「…そっか」
 それだけを言って、ロイドは体ごと振り返った。うつむいたままのゼロスを抱き締める。
「俺、お前が好きでよかった」
 やっぱり優しいよ、そう言えば抱き締め返される。
 彼いわく、年齢的に恥だという“それ”がないこと。それを吐露(とろ)してくれたのは限り無く喜ばしいことだ。
「…ロイドくんは嫌じゃねぇの?」
「何が?」
「俺さま、男は当然始めてだし、女の子とすらしてないのよ?」
 同性同士でも嫌なはずなのに、と呟くゼロスに軽くこつく。
「俺だって始めてだ。それに、男同士だからじゃない。ゼロスだからしたいって思ったんだ」
 それに、とロイドは続ける。
「お前が始めてって言ってくれたの、すげー…嬉しかった」
「ロイド…」
「それってさ、俺とは本気ってことだろ? 遊びだったら言わねーもんな」
 にかっと笑う彼に、苦笑し顔を見合わせる。
「の前に付き合ってなんていねーよ」
「だな」
 くすりと互いに笑い、抱き合ったままベッドに寝転がる。互いの体温が心地いい。
「愛してるぜハニー
「はいはい」

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