昼食をとり、セレスの具合も良いので庭先へと出る。
修道院暮らしだった彼女は、触れたくてもさわれなかった白い綿が一面に広がり、ロイドと一緒にはしゃいでいた。
楽しむ妹の姿にゼロスは思わず笑みが零れるが、あくまで遠巻きに見るにとどまる。
その内にロイドはセレスと一緒に大きな塊を作り始めた。それが何か分かると、どうして、と声に出さずに問う。聴こえる筈もないその問いに、少年がこちらを見て答える。
「待ってろよ、すっげーの作るから!」
にかっと笑う彼は実年齢よりも幼く見え、それでも嫌味ひとつない。心から、ただ楽しみにしていて欲しいと訴えている。
いびつながらも大きさを増す、2つの玉。
重ね合わせ、落ち葉や枝で最後の仕上げとばかりに押し込んでいく。
外に出れなかった妹が純粋に楽しんでいるさまは、心温まる。けれども、この条件下では嫌でも思い出してしまう過去。それを、少年は知っているはずなのに。
周りは母親を“亡くした”ショックだと思っている。そう“勘違い”されているほうが楽でもあった。そっとしておこう、と何も理由を尋ねてこない。旅業も神子としてならと誰もが納得する。
実際は母親に“言われたこと”がショックだった。
「できましたわ!」
「うん、いい感じだ!」
はしゃぐセレスと満足そうなロイドの声に、はっとする。来いよ、と連れられて見たのは立派な雪だるま。
「これ…」
「セレスが雪触ったことねーって言うからさ。作ったんだ。やっぱこれだよな」
「結構重労働なのですわね。でも、楽しかったですわ」
はぁ、と手袋をした両手に息を吹きかけるセレス。その両手を包むように自らのを合わせるロイド。あまりの自然さに彼女は少年を見上げた。
ゼロスの目の前には、2人がつくった雪だるま。
メルトキオに雪。邸に雪だるま。両手をこすり合わせる少年と妹。
あきらかに、逃げたくなるような状況なのに、足が動かない。震えてもいない。ただ、感じるのは。
「よっし、今度は雪うさぎつくろうぜ!」
「雪うさぎ?」
「フラノールでのお守りだ。今度行ったときに買ってくるよ。な、ゼロス?」
にっこりと笑いかけるロイドに、ゼロスはやや間を置いて
「ああ」
と答えた。
どうしても逃げられない道を作るしかない。いつまでも逃げてばかりじゃ得られないものが在る。少しでも、和らいでくれればいい、と。
「ありがとな、ロイド…」
小さく呟き、ゼロスはセレスと少年の輪に入っていった。