甘えているのが分かる、ゼロスの子供っぽいところ。それがいつにもまして長い。
「なあゼロス〜…」
「ん〜…?」
「いい加減離れろよ」
ベッド脇にある机に剣を立て掛けたところに、ゼロスはロイドを後ろから抱き締めた。
肩に両腕を回され、密着した状態。振りむこうにも左肩には抱き締めている男の顔がうずめられ、向けない。
こうなると身動きが取れず、ロイドは何度目か分からないため息をついた。
「なあ…」
世界統合前は見せかけのスキンシップだったが、今は本当のスキンシップだ。他の意味も、加えられたが。
「ったく。何がしたいんだよお前…」
ふわりとした赤毛が首筋を撫で、微妙にみじろぐ。もどかしいこそばさにロイドは男の頭に右手を置いた。
低く、ゼロスが呟く。その言葉に「俺もだぜ」と即答すると、抱き締めていた腕が離れ、振り向かされる。
両肩に手が置かれ、ロイドは瞬きした。
「ゼロ、ス…?」
意味が分からない、そう言おうとした時だ。
「ロイド。俺とこうしてるのは嫌か?」
「…はあ?」
「正直に言ってくれ」
何が嫌なのか。抱き締められていることか。本当に嫌なら突き放している。それは互いに分かっている事のはずだ。
「そりゃうっとうしいときもあるけどさ。嫌じゃねえよ?」
ふるふるとゼロスは頭を横に振った。
「俺らは、なんだ? 旅の仲間? 友人? いんや、違うね」
「なにが言いたいんだ、お前」
「ロイドくんは、俺さまをどう思ってる?」
それはさっき言ったはず。だがそれは男の答えにはならないだろう。仲間でも友人でもない。スキンシップにつけ加えられた意味。つまり…
「す、きだぜ…こ、恋人と、し、て…」
面と向かえず、視線を落とす。頬が熱い。
「…なら」
くすりとゼロスは笑い、右手でそっとロイドの頬を撫でる。何かと思い、顔を上げた少年に男は腰をかがめた。
一瞬。
触れたか触れていないかが分からないほどの、刹那(せつな)。
「これは?」
もう肩に手はない。逃げだそうと思えば、できる。だが、足は動かない。何をされたのか、理解するのに思考が追いつかない。
固まったままのロイドに、ゼロスは彼の目の前で手を振ってみる。やはり失敗だったか、と思ったときだ。
「…も、いっかい…」
「へ?」
「もう1回! よく分かんなかったから!」
んっ、と突き出すように瞼をおろした顔がゼロスを見上げる。それにはゼロスもくすりと笑い、顎に手をあて固定し、しっかりと触れる。
分からないというのは言い訳だ。逃げるか怒るか、はたまた泣く、か。そのどれでもない、この行為。
それは、嫌ではないという証に違いなかった。