ワイルダー邸内のパーティにはかつての仲間も呼ばれており、それぞれが楽しんでいた。
礼服に身を包んだ女性陣は変わらず可愛くて綺麗であり、ジーニアスはプレセアに付き添い、リーガルも穏やかな顔で挨拶を交わしている。
仲間たちと時に会話を交わし、時にからかい、時に笑いあってもロイドは移動するたびにちらりと家主を振り返らずにはいられなかった。
妹もそうだが、ここまで露骨に放っておかれるとは思っていなかったのだ。
(何やってんだ、あのアホ神子…)
彼がモテるのは周知の事実。そして彼の能力(パーソナル)は大いに助かる。その点では旅の同行者として十分だろう。けれども。
すっと辺りが暗くなった。急な暗さに会場が少しだけざわめく。すると、上手の方で明かりがついた。
色鮮やかに彩られた樅の木が、煌煌しく光を放つ。
そのすぐ傍で、ゼロスがこちらを向いて手を振っていた。こっちへ来い、と招いている。
傍まで行けば手を引かれ、2階へと連れられた。
「ゼロス! いったいどうしたってんだよ?」
階段を昇り、廊下を5、6歩進んだところで紅の髪が止まった。
手を結んだまま、振り返る。
「今日集めた奴らな、そのほとんどがエクスフィアを持ってる」
「な…」
「っつっても身に着けてる訳じゃねぇ。機械とか研究とかに使ってる。今すぐに、とはいかないが半数くらいは集まるはずだ」
低い、ゼロスの声。このパーティはそもそもセレスと共に祝うためだったはずだ。それに便乗したということか。
ワイルダー家に嫁ぎたい者もいれば媚を売るものもいる。廃止予定の“神子”の名を座を欲しいがために。
「リーガルの旦那も、協力してくれてんだぜ〜?」
そうなのか、と相変わらずの気転のよさに感心せざるおえない。
散らばった欠片を一箇所に集めるのは効率がいいうえに、時間も短縮できる。
「どーよハニー? 惚れ直しただろ〜」
「ああ、リーガルはやっぱカッコイイな」
「そっち!?」
相変わらずの軽口にいつものように答えれば期待を裏切らない反応を返してくる。何気ないやりとりにゼロスに見えないよう、ロイドはくすりと微笑んだ。
「で、これか? イイコトって」
下の歓声がここまで聞こえてくる。
「それもあるけど、戻ってからの秘密だ♪」
「……?」
首を傾げるロイドに、ゼロスは彼の左腕を引いて階段を降りていった。
会場内は暗く、飾られた木以外に明かりはついていない。それでも装飾の光は淡く、気をつけなければ他人の足を誤って踏んでしまいそうだ。
その木の下でも最も暗いところでゼロスは足を止めた。
「ったく、なんなんだよお前!」
「でっひゃっひゃ。たまには行事にのっかってみよーかなーと」
「はあ?」
くるりと身を翻してロイドと対面し、彼の頬に手を添え上を向かせる。
みつ編みにした紅い髪が揺れた。
ゼロスが体勢を戻すと同時に、室内の明かりも点く。
瞬きを数回繰り返してロイドは顔を染め、右腕を口元に当てた。
「ロイドくんは知らねーだろうから教えてやるけどよ、モミの木の下でキスしたカップルは、永遠に結ばれるんだとよ」
俺はお前以外とする気はないけどな、とさらりと言ってしまえる彼にロイドはつんっと顔を背けた。
「…俺、別れるかもって聞いたぞ」
「…マジ?」
眉を潜めるゼロスに、心の中で笑いロイドはカツンとブーツを鳴らして彼に近づく。
「でも、俺はお前と一緒にいる。ずっとだ」
今度は、ゼロスが頬を染める番だった。