これがあるから死ななくてはならなかった。
 これがあるから殺さなくてはならなかった。
 だから、捨てる。だから、壊す。

 パチパチと火花を散らす炎にあたりながら、ロイドは左手の甲を見た。
 光の加減で赤く見える宝石は、晴天の様な青色をしている。
 小さく、けれどもそれなりの大きさのあるそれは命の輝き。一度は憤(いきどお)りに身を任せて捨てようとすらした大切な物。
 旅の目的はこの宝石と同じようになった石を探し、見つけ、壊すこと。または、捨てること。
 必要だから、と今も身に着けているがなんという矛盾だろうか。
 エクスフィアは人の潜在能力を高める。だが一方で毒となり身体を蝕(むしば)む。だからこそ、不要なものなのだが。
 ふぅ、と息を吐いて炎の先を見る。
「ロイド〜?」
 少し離れた場所に設置されたテントから、ゼロスが中腰で出てきた。
「まだ起きてたのか? 早く火消せって」
「ん…なんか、寝付けなくってさ」
 ふいっと顔を上げ、ロイドは空を見る。彼の隣に立ち、ゼロスもならうように見上げた。
 暗い蒼色の空には大小さまざまな白い光が散らばっている。
「なんか考え事か?」
「…うん」
 鉱石として発見されたエクスフィアはそのまま、要の紋を取り付ければ使える。だが、それ以上の力を出すには人の身体に直接着け、成長させなければならない。要の紋をなくして装着することは、それすなわち毒と分かりながら飲むことと同じ。
 だからこそ、エクスフィアはこの世に存在してはならない。そのために苦しむ人が、苦しんだ人がいるのだから。
 ロイドの左手の甲にある宝石。
 特別とされるそれは、犠牲となった母親の形見だ。
「矛盾してるな、って」
「…エクスフィアのことか。まあ、確かにな」
 人の力を伸ばしけれども人の命を蝕む。理にはかなっているが、ロイドが言いたいのはそれではない。
 エクスフィアを回収するために、エクスフィアの力を使っていること。
 必要でないのならば、その力に頼ること自体がおかしい。けれども。
「エクスフィアの力に立ち向かうにはエクスフィアでなければならない。そう上手くはいかないわなぁ」
 空を見上げながらぽつりとゼロスは言った。
 彼の胸にあるのはおそらく鉱石から作られたものであり、自然の物であるはずだ。それでもいつかは外し、壊し、捨てなければならない。
「んで? 捨てるのか?」
 星空を見たままのロイドに振り向き、問う。少年は瞼を降ろしてゆっくりと頭を左右に振った。
「全部が終わるまでは。それに約束を果たさないで先に流したら母さんに怒られちまう」
 ゆっくりとグローブの上から、左手の甲を撫でる。
 その上に重ねるように手を乗せ、ゼロスはロイドを見据えた。
「だったら、一日でもはやく約束を終えられるように、今日はもう寝ようぜ」
「そうだな」
 そうして2人は土を火にかけて、テントの中へと入っていった。

 宝石があるから死ななくてはならなかった。
 宝石があるから殺さなくてはならなかった。
 もう二度と、両親のような悲しみを生み出して欲しくない。

back