がしがしと頭を拭き、ロイドはタンクトップ姿で浴室を出る。
 かちゃかちゃと鳴る音に、ふと先ほどまでゼロスが座っていたテーブル席へと座る。いつの間にか雑誌は消え、おいしそうなクッキーやプリンが置かれている。
 トレーにティーポットとカップを乗せたゼロスが姿を見せた。
「どうしたんだよ、これ」
「ハニー達からの差し入れよ〜。んで、こっちは俺さまから」
 ティーセットを置き、空のカップを並べ、湯気の昇るポットを持ち上げ中身を注ぐ。
 こぽこぽとゆるく波打つそれは8分目で止まり、ぽたりぽたりと滴が落ちていく。
 落ちそうでおちない、最後の一滴を入れ、ゼロスはティーポットを置き、小さな瓶を手に取った。
「なんだ、それ? 砂糖?」
「甘いのは変わらないけどな」
 瓶にはスプーンがすでに入っており、お好みで入れられるようになっている。しかし、装飾されたそれは中身が分からない。
 レザレノ社が経営するホテルの一室、それもやや豪華な客室に備えられたそれは、どこか上等な砂糖なのかとも思われたが。
 とろり。
 飴色の液体がひとすくい、ティーカップの中へと入っていく。
 音を立てないよう、静かに回し、ゼロスはスプーンを取った。
 カチャン、とロイドの前にカップが置かれる。
「飲んでみな」
 不思議に思い、青年を見上げるとそう言われ口につける。
 ほんのりと甘い香りがし、口の中に砂糖とは違った甘味が広がっていく。
「あ、うまい」
 すると小腹が空いたのか、自然と机に置かれたクッキーへと手が伸ばされ、口に運ぶ。
 シンプルな味のお菓子に、紅茶がよく合う。
 向かいにゼロスも座り、自然な動作で淹れたばかりの紅茶に口をつける。見慣れてはいるが、癖なのだろうかどことなく気品がある飲み方だ。
 彼が貴族である、それが伺える。
「たまには息抜きも必要だろ?」
「だな。よっし、これ食べたらまた頑張ろう」
「まだ続けんの?」
「あと少しなんだ。お前がいれてくれたから、もっとやる気出てきた」
「そりゃあ光栄だ」
 机に置かれたお菓子もなくなってきた頃、ロイドは細工の続きを、ゼロスは片づけを始めようと立った。
「ロイド」
「んー?」
 さっとゼロスがロイドの顎を持ち上げ、やや屈んで口を合わし、姿勢を正す。
 やや甘い味がするのは明らかに紅茶に淹れたそれ。
 機嫌良くティーセットを運ぶゼロスの後姿に、ロイドは顔を赤くしながらも作業机に向かった。
 今度はこちらが仕掛けてやろうと思いながら。

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