世界樹の問いかけに答えた。
記憶を持つか否か。――当然、持つことを選んだ。
世界の危機は去ったものの、ギルドとしては機能している『アドリビトム』の一員。ディセンダーというのはもはや単なる飾りでしかない。
けれども、みんなはわたしを迎えてくれた。これが温かい、ってことなんだろうな。
「ピコピコハンマー! っあ!」
「…!」
そんなある日。
目の前に広がる赤い丸。避けきれなくてもろに当たってしまった。
うっすらと香る薬品。医務室に寝かされているのだと気づく。
「目が覚めましたか? 気分はどう?」
「……?」
混濁(こんだく)する意識でどうなったのかを思い出す。すると、今までになかった『記憶』が出てくる。…これは、わたしの記憶…?
顔を左右に軽く振って、心配そうなパニールに笑う。
「あ、大丈夫。えっと…クエストは?」
「そう、よかった。依頼でしたらクラトスさん達が報告してますよ。呼ばれます?」
「お願い。あ、ココア飲みたいな」
「はいはい」
安心した彼女が出て行き、数分もしないうちにクラトスが入ってきた。
「…現状を説明するべきか」
「うん。あっと…なんて呼んでた?」
「私のことはそのままだ」
「じゃあクラトス。ありのままに話すから、他の人いないか確認してくれない?」
表情ひとつ変えないのは長年の知恵なのかと、新たな『記憶』と共に考える。
誰もいないと分かり、説明しておく。
「このグラニデもパスカも関係ない、全く違う別世界の記憶。それがわたしの中にある」
「私たちが別の世界にもいる、ということか」
「うん。なぜこんな記憶を持ったかは分からない。ただ、クラトス達のことは全部知ってる…未来を変えられる可能性が、ある」
「…またやっかいな記憶を持ったものだな」
「世界樹の選択肢には含まれていない。それにわたしは気絶して持ったからよく分からない。ただ、みんなの呼び方を忘れた」
「…そういった事例も初めてだからな。呼び方は攻撃によるショックだろう。カイルとリアラのようにややこしくなる。その話は誰にもするべきではないだろうな」
別世界だからこそ言ってはならないことがある、カイルとリアラ。特にカイルはその存在自体を消さないよう動かなくてならない。
「そうだね。特に未来を動かすようなことは慎重に事を運ばなくちゃ」
「それを分かっているならば、私からは何も言うまい」
ディセンダーの存在を知り尽くしているクラトス。だからこそ、全部を包み隠さず話した。原因究明には科学チームの誰かにも言った方がいいのかもしれないけれど、知りすぎるのも困りもの。
「呼び方については私から話しておく。そんなにこだわらずともいいとは思うがな」
「そう? 苦手だからこっちで呼んで、というのは若干2名いた気がするのだけれど。でしょ、クラパパ?」
「……」
無表情が凍りついたのに、不謹慎ながら少々笑ってしまった。こういうのが見れるのならば『新しい記憶』も悪くないかもしれない。