「結局…信じられなかったのは俺の方か…」
ゆらりと『別世界のゼロス』が起き上がって空を見上げた。
「ざまぁねぇな」
どこか悲しそうで、でも嬉しそうな顔でわたしたちを見る。
良かったんだろうな、これで。
「んじゃ、こっちの俺さま。ロイドくんを頼むな」
「その様子だと輝石壊れてるんだな。言われなくても分かってるって」
にやりとゼロスくんが笑った。ああ、自分のことだから誰よりも理解してるんだね。
うっすらと『ゼロス』が消え始める。
「あっ、ゼロス! お前勘違いしてるだろうけど、セレスはお前のこと嫌ってるんじゃないからな! お前に迷惑がかからないようにわざと突っぱねてるだけなんだから!」
「ちょ、ロイドくん!?」
和解したあとだったんだ。じゃあ言っても大丈夫かな。
「…ロイドが言うなら、そうなんだろうなぁ」
小さくサンキュ、と言ったら完全に『別世界のゼロス』は消えた。
来た道を戻るロイドを、追いかけるゼロスがわめいている。
「なぁーんで言っちゃうかなぁ!?」
「だって、あのまんまじゃあのゼロスがかわいそうだろ? ずっと嫌われてるって思ったままなんて。…お前だってそうだったじゃんか」
「〜っハニー!」
相変わらず凄いなぁロイドくん。いつもの光景だから気にもせずに、わたしはロイドくんに飛びついたままのゼロスくんの後を追った。
さて、依頼完了の報告と談義の話題でも持っていこうかな。
船に帰ると報告は彼にしてくれと頼まれた。
ああ、やっぱり彼だったんだ…。
「私はクラトスから頼まれただけですよ?」
『嘘だ』
わたしとロイドくんは声を揃えて言った。
「ジェイド、てめー俺さまだって分かってて行かせたな?」
「いや〜面白そうじゃないですか。本来ならば同時空に同一存在がいたら時空が乱れるはずなのに、それがないなんて。まあドッペルゲンガーというのはそういう原理(こと)なのではないのかと」
疲れる、と肩を落とすロイドくん。うん、気持ちは分かるよ。
「ではご苦労様でした。報酬は5000ガルドとエリクシールです」
「5000万ガルドだせ!」
「神子として扱われるのが嫌だったと認識しておりましたが?」
眼鏡をくいっとやってジェイドは言った。ああもう、喰えないなぁこの人。
「俺さまの価値はそんなに安くねぇんだよ。まったく、付き合ってられねー行こうぜロイドくん。ローズちゃん」
長居をする理由もないから、報酬を受け取ってわたしは2人の後ろをついていく。
一応パーティは解散したんだけど、誘われるままに展望台へと移動した。
他人に決められる運命なんていらない。だけどきっかけをくれるのは心を許した他人。
どちらかを取るのは、自分自身。
「ローズちゃんはなんで知ってたのかな」
「そういえばそうだな。俺も話してないのに」
ゼロスくんはコップにお酒を注ぎながら、ロイドくんはジュースを飲みながらわたしを見た。
「感、かな」
『記憶』のことは話せない。かと言ってこれは2人の問題だから誰かから聞いたとかは言えない。
「ディセンダーってそういうのも分かるのかぁ。なんか凄いな!」
うう、ロイドくんのキラキラ笑顔がまぶしいです…。
「感、ねぇ…。まあそういうことにしといてやるよ」
くいっと飲む姿はカッコイイけれど、やっぱり三枚目なんだと改める。
気づいてるのかそうじゃないのか判断に迷うのは、変わらないんだけど。
「俺とクラトスの関係も、感なのか?」
「…んー、まあね。本人に問いただしたら答えたから、本人から聞いたとも言えるんだけど」
「ローズちゃんは凄いねぇ〜。その様子なら俺さまのことも知ってそうだな。でっひゃっひゃ」
「ゼロス?」
さらりと言ってロイドくんが不思議そうな顔をする。ちょっと不安も混じってるみたい。
気づいてるのかちょっと微妙だけれど、それでも。
「仮に知ってても、わたしはゼロイを信じてるわ」