女の子同士はどうしてだか恋愛で盛り上がる。
前にパニールのことで気にしてる子もいたし、アニーとか恋愛小説を持ち寄って読んだりしてる子もいた。
いつだったか、彼も「恋模様は見ててあきない」と言っていたっけ。
わたしは恋に近い感情を彼に抱いた。でも、それは単なる“憧れ”であるとパニパニの話を聞くうちに気づいたから、そう言った意味での好きな人はいない。
おやつの時間に、いつものようにわたしたち女子組は盛り上がっていた。
「ローズは誰かいるの?」
カノちゃんに聞かれ、わたしは首を振った。
「嘘言いなさんな、知ってるんだからね。みんなが寝静まったころ、こっそりクラトスと何かしてるの!」
イリアがフォークでわたしを指しながら言った。みんなの視線が集まるのもあれだけど、フォーク人に向けちゃだめ。
「イリアさん、フォークで人を指してはだめですよ。でも、どうして知ってらっしゃるの?」
「あー、ごめん。いや、ね? 夜中にトイレ行きたくなるじゃん? で、ホールに出たら展望室昇っていく2人見かけたわけ」
「人の恋愛には関せずが、深夜というのは感心せんな。ましてやアウリオンなどの成人男性と…」
パニパニの注意に素直にフォークを机に置くイリア。クロエが淡々とさとす。
「クラトスとはディセンダー関係で話をしていただけ。恋愛感情はないよ」
『新しい記憶』のことは話せないから、嘘になるんだけどわたしがディセンダーであり、クラトスが介添人であることはみんな知ってるから納得していた。
「なんだ〜つまんなぁ〜い」
「でも、いいなぁみんな。私も相手が欲しいよ」
ぽつりとリリスちゃんがもらした。あー、このメンバー片想いだったりするものね。
「カノちゃんはいないの?」
「私? んー、今はいないかなぁ。みんな私の大好きな人たちだけど、恋したいっていう人は…」
「純粋培養がいすぎなのよ。あーあ、勝ち組多すぎ!」
にっこりと笑うカノちゃんにパニパニは「あら、それならもっと長生きしなきゃね」と言ってるし、イリアはだらんと背を持たれかけさせた。
うん、と…ルティにはスカタン、イリアにはルカ、ティアにはルー君にアーチェにはチェスター。リアラにはカイルでパニパニはジャニス、ルビーはカイウス、ミントはクレスくん。プレプレはどう思ってるのかな、ジニのこと。
「そうだわ、クラトスと言えばロイドよ! ね、コレット。どうなの、その辺り?」
「だめ、ルーティ。ロイド、ぜんぜん興味なかったもん」
「『付き合うってなんだ?』のド天然ときてるのよ〜いじりがいないわ〜」
何を期待してるのかルティがコレっちに聞けば、代わりにとばかりにルビーとイリアが答える。そういえば挨拶のとき、そんなこと言ってたなぁ。
「うはっ、すがすがしいまでの答えね〜。ちょっと見たかったかも」
「でも、以前ロイドさんとご一緒することがありましたが、コレットさんのことを好きだとおっしゃってましたよ?」
アーチェが「だめだこりゃ」と呟き、ミントが首をかしげながら言った。
「うん、私もロイド好きだよ。でもね、それは恋というより憧れかなぁ。ロイドの素直さとか自分でやりたいようにするところとか、凄く好きだもん」
「コレットさんは本当にロイドさんが好きなんですねぇ」
「ギルドのみんな全員好きだけど、ロイドだけは別なんだ。でも、きっとね、それは錯覚なんじゃないかって思うこともあるの。戦ってるときも、こうやってみんなでお話してるときも、みんなかっこいいって思うから」
「うわ〜盲目ってやつ〜?」
「ロイドさんのことが本当にお好きなんですね」
嫌そうにするアニスに、くすくすと笑うフィリア。『新しい記憶』でもフィリアは切ないと思える。またスカタンと同行させようかな…。
「けれど、ロイドに関してはもうちょっと恋愛に詳しくなってほしかったわね」
ティーカップを置きながらリフィが言った。
「どういうこと?」
「思い出した…アーヴィング…アウリオンの息子でありながら…っ」
「ネタには困らないんだけどね〜…イリア?」
「そうですわね、ルーティお姐さま? ルカよりいじりがいがあるかと思ったのにさー」
「いやー思い出させないでぇー!」
頭にハテナを浮かべるわたしを置いて、一部はあきれたり顔を隠したり、クロエ・ルティ・イリア・ルビーはそれぞれの反応をする。
なんだろう?
「コレっち、プレプレ、リフィ。どういうこと?」
「悪いけど、私はパスさせてもらうわ。あれを考えるとジーニアスはまだマシだったということね…」
食器を片付けはじめたパニパニに手伝いを申し出てリフィが立ち上がった。
「恋愛は…人それぞれ、自由です…」
プレプレはそう言い残してすずちゃんと共に食堂を出て行った。依頼でも引き受けたのかな。
「あのね、ローズ――」
クエストを受けて、パーティの申請をしに地下1階廊下に出た。
「ハニ〜」
「だぁーもう、くっつくなっての!」
ゼロスくんがロイドくんに背後から抱きついていた。今までならいつもある光景だから気にもしなかったんだけど…。
「ん、ローズちゃんじゃないの〜。パーティの依頼ならいつでもオッケーよ〜?」
「お前なぁ、いつも思うけどなんで抱きついたまま話すんだよ」
「そ・れ・はぁ〜ロイドくんが1番わかってるっしょ?」
見てて飽きないなぁこの2人。と、そうじゃなかった。
「うん、パーティに入って欲しかったんだ。場所は海底遺跡で月光ルート。ロイドくんも」
「え、俺も? 別にいいけど」
「いいねぇ、ハニー達に囲まれての海底デート! んじゃま、さっそく行きますか」
やれやれとため息をついてロイドくんはそのままゼロスくんを引っ張りながら歩き出した。
その横を歩くわたし。
「愛の重さってやつ?」
「なんだそりゃ」
「ローズちゃん分かってるぅ。でも、気づくのがちぃーとばかし遅かったな」
呆れつつも放そうとしないロイドに、気遣いながら徐々に離れていくゼロス。
「全員知ってるんだってね。うーん、これからはまとめてゼロイって呼ぼうか?」
「…ローズって時々分からないこと言うよな。それ、ゼロスのことだろ?」
「ゼロスかけるロイドで、ゼロイ。ゼロロイでもいいけどさすがに分かっちゃうから」
「かける? 俺らでかけ算してなんでゼロスの呼び方になるんだよ?」
「あ〜…乙女のヒミツってやつだな。ロイドくんはそのままでいい」
普通はクロエやルビーみたいな反応をするんだろうけど、わたしは2人を応援していたからこれは凄く嬉しかった。
「じゃ、今日はよろしく。ゼロイ!」
「それはゼロスだけにしてくれー!!」