桃色よりも赤が強い透き通るもの。
「アイテムスティール…ふみゅ!」
 コレっちの背にある、羽。
「失敗しちゃった〜てへ」
「はっ。…大丈夫?」
「うん、ありがとう」
 モンスターを倒して、コレっちに手を差し伸べる。
 彼女が、戦闘時以外に羽を出すことはない。
 ディセンダー(わたし)がもつ光に似た、その羽を。

 誰も気にしなかったし、わたしも記憶がなかったから気にもとめなかった。でも、今は『新しい記憶』があるからちょっと…かなり気になり始めた。
 ディセンダーの光は精霊と、カノちゃんとコレっち、クラトスにゼロスくんが見える。
 クラパパはディセンダーの見届け人だし、カノちゃんは『パスカ・ディセンダー』の因子がある。
 コレっちとゼロスくんは神子。世界樹に連なる神官の家系。
 神官ならばフィリアやルビー(は見習いだけど)にも見えてもいいはず。
 それに、同じ神子なのにゼロスには羽がない。
『新しい記憶』が確かならば、彼にも、“彼ら”にもあるはず――。

***

 以前、洞獄門で会った『別世界のゼロス』には羽があった。あの時はわたしとロイドくんだったから特に疑問に思わなかったけれど…。
「ジェイドは幽霊の正体がもう1人のゼロスくんだって分かってたんだよね?」
「断定はしませんでしたが、噂の要素から構築したまでですよ?」
『別世界のゼロス』は幽霊だという噂がたっていた。その調査を頼むクエストが“グランマニエ”の偵察員から来ていた。もっとも、これはジェイドが仕組んだ罠で目の前の男はおもしろがっていたのだけれど。
「要素?」
「幽霊とは実体を持ちませんが、姿は持っています。人、動物、はたまた物だったり…。それは見る人によってバラバラですが、特定の…そうですね、この場合は“人”ですか。形が分かればあとは組み立てていくだけです」
「実際に見たわけじゃないんだ?」
「『負』の充満する土地にわざわざ足を運ぶほど、危険な行為はしませんよ」
 クエスト受けて行ってるわたしはいったい…。
「『もう1人のゼロス』は少々気になってましたからね」
「どういうこと?」
「見たのでしょう?『もう1人のゼロス』にはコレットと同じ“羽”があることを」
 そこまでを想像できるジェイドが凄いと思ったのは内緒。

「『新しい記憶』が関係しているのだろう?」
 みんなが寝静まったころを見計らい、わたしはクラトスと共に展望室にいた。
「以前話した『2つの世界』。それにジェイドが出した依頼のとき、彼は言った。『2つの世界』にある言葉を…」
 あれはこの世界では聞かない言葉。
「…『2つの世界』に『2つの道』か」
 くいっとクラトスはコップを傾けた。様になってるなぁ…。
「『グラニデ』の世界樹の神子って、いったいなんなのかな…」

***

 世界に危機が訪れるとき、神託がくだり神子は再生の旅へと出る。神子は天使となり、世界を救う。
 ――セルシウスから聞いた話では、地下遺跡を造ったマンダージの民が、ディセンダーに使える為、特殊能力を与えられた者達の末裔。
『グラニデ』ではそういうことになっている。『新しい記憶』ではまったく違うことになっている。
 天使になるということは、感情をココロを失うこと。
 でもそれは、求めれば失くすことはない。
 羽を持つ神子。
 世界樹は何を思っているのだろう。

back