「ねえ、最近さぁローズが歌ってるのなんなの?」
 パニール特製スイーツを食べながらチェルシーが言った。
「え?」
「私も気になってました…。ローズさん、もしよろしければ教えていただけませんか?」
「マオ以外が歌うのってあんまり聞いたことないしねー。でしょ? アニー」
「え、ええ…」
 食堂でティータイムを取っているわたし達。ここにいるのは全員女性。
「イリアの言うとおりだよねっ。ね、ね、なんて歌ー?」
「わたしも聴いてみたいですわ」
「私も…同じく…」
 アニスにせっつかれるわたしに、おずおずとクレアとエステルが申し出る。
「…歌ってた?」
 何か口にしていたのかと女性陣を見れば頷かれる。なんて言ってたんだろう。
たまに歌ってるのが聞こえるんだよ〜。ローズのね、低いけどそれがまた味を出してる歌が」
『コレット・さん・ちゃん…』
 ほわほわと言うコレっちにみんながやや苦笑する。まあわたしの声、確かに低いけどね。
「そう言われても…勝手に口にしてるだけだから、歌えって言われても…」
「確かに…口を紡(つむ)いで出る言葉は、無意識下でするものだから」
「ちょっと残念〜」
 ティアにリリスちゃん。こうしてみると女性メンバーも多いなぁ。非戦闘員はパニパニとクレアだけだっけ。
 どうせならアミィちゃんやセレスちゃんとも会いたかったなぁ。

 他愛ない会話をして、パニパニお手製ココアを飲む。
 ふと頭に浮かんだ言葉を小さく、ほんの小さく口にしてみる。
「コールドスリープ…超振動…ユグドラシル…」
 こくり、と最後の一口を飲む。アーチェ、ミント、クレア、アニー、アニスにティアがわたしを見たけれどすぐに輪の中に戻っていった。
 パニパニに紅茶を頼んで、足を組みなおす。
「ローズさん…何を言ったんですか?」
「ちょっとしたことだよ、プレプレ」
「お待たせしました。どうぞ」
 湯気が昇るティーカップにいい香りだと、目を細めパニパニにお礼を言う。おいしそうというより、おいしいんだろうな、絶対。
「無意識下で出るというのはちょっと気になるわね〜」
「そうね…ましてやローズはディセンダー。記憶がなかったとは言え、どこかしらのきっかけで思い出すことだってある…」
 ハロルドとリフィの知的コンビは悶々と考え込んでいる。
「深く考えなくてもいいと思うけどな〜」
「カノンノの言うとおりだよね」
「人事みたいに言うな…お前のことだぞ?」
 セルシウスはなぜちゃっかりいるのだろう。たまたま人間界に来てたのかな。
「…神の目…セレスティア…前世…」
 今度の独り言は、誰にも聞かれなかった。

***

 わたしの歌は男性陣にも広まっていた。
「ローズちゃん〜♪ 俺さま、ローズちゃんの歌声、聞きたいなっ♪」
「俺も気になってるんだ。あっ、でもローズが嫌なら無理に歌う必要ないからなっ」
 それよりもわたしは凄く気になるんだけど。
「ロイドくん、ゼロスくん背負ってて疲れない?」
 いつもの如く、いつものように、ゼロスがロイドに抱きついてる。
「あー…なんか慣れた」
「さっすがハニー! 愛してるぜ〜」
「…重い。離れろ」
「冷てー!?」
 これが普通だからと思ってたんだけどね。この2人はそれ以上なのが凄いよ。
「ローズ! あのさ、歌が聞きたくて…ああでも、無理は言わないよ。気が向いたらでいいから聞かして欲しいな」
「俺としちゃ、すぐにでも聞きてーところだがな」
 クレスくんはどこか似てるんだよね。チェスターも相変わらずだなぁ。2人とも、アーチェから聞いたんだろうな。
 どこからともなく現れる男性陣から離れて、船内を散歩する。

「…シズマニ。シルヴァランット、テセアラッ。シズマニ、フラジマニ…」
 耳にしたままの綺麗な声。その言葉をわたしは口にする。
「テセアラン、カラサネウニュー…アルマテリアー…」
 ショップで品物を定めながら、ああそうかと気づく。
 みんなが言っていた歌ってこれなんだ。まあ、大丈夫かな。
『新しい記憶』を持ってることはクラパパしか知らないんだし。

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