討伐クエストから戻ってみれば、なんだか船内の空気が重い。(ちなみに討伐はわたし1人で行った)
それぞれが気まずそうに顔を見合わせてはそらす。仲間内はあんまりそんなこともないのだけれど、他の人が関わってくると…ああ、チェスターを見たスパーダが何も言わずに甲板に出ちゃった。いつもならひそひそと楽しそうに話すのに。
そんな中でも一部の人は変わらないでいる。スカタンとかカイルとかロイドくんとか。クレスくんもかな。
「はぁ」
「あらあら、ため息なんかおつきなって〜。ダメですよ、幸せが逃げてしまいます」
「ん…そうだね」
パニパニにこれ以上心配させたくなくて笑ったけれど、うまく笑えたかな。
「何か飲まれます?」
「じゃあ、紅茶をお願い。ハーブがいいな」
「はいはい」
パタパタを羽を羽ばたかせて手際よく準備をする。小さいのに器用なんだよね、パニパニ。
お茶の匂いに誘われるまま口にして、この重い空気が何時からか考える。とはいえ、さっき帰ってきたばかりだから答えがでるはずもないのだけど。
甲板に出ると、カノンノが定位置でペンを走らせていた。
「今度は何を書いてるの?」
「あ、ローズ。えっとね、みんなのこと! でも他の人には内緒だよ」
人差し指で唇に当てる姿はわたしでもかわいいと思ってしまう。
「うん」
カノちゃんが出したディセンダーの本。読書好きな女の子達や貴族出の一部の人達は読んでるみたいだけど、量が多いのかその人のペースなのか、なかなか聞かない。
ファン第1号のパニパニにいたっては何度も読み返しているらしい。1ヶ月10冊だからペースはだいぶ速いほうだよね。
「アドリビトム(ここ)には色んな人が集まってくる。複雑な事情を持つ人もいるけれど、みんながみんなを心の底から嫌ってるわけじゃない」
ゆっくりと航行しているからか、それともゆったりとした造りのせいなのかはわからないけれど、風がわたしたちの髪をはばたかせた。
「一度故郷に帰った人たちも、それぞれココに帰ってくる…きっとね、アドリビトムってみんなの第二のふるさとなんじゃないかな」
そう言ってカノちゃんは笑った。
アドリビトム。古代神官語で『自由』を意味するこのギルドの名前。
「そうだね」
自然と、笑みがこぼれた。
***
最近気になるのは、船内の空気もなんだけど、1番なのは食事のときに数人、数十人いないことが多くなったこと。
食事当番のリリスちゃんやクレアが首をかしげることもしばしばで。
忙しいからという理由で食堂に来ない人には直接持って行ってるんだけど、それでも使われていない余る食器の数々。
『負』の影響なんじゃないかって噂もちらほら立った。
…感じないんだけどな。
依頼が来てないか機関室に行ったらクエストがあった。
「え、なにこの依頼?」
「ああ、それはジェイドさんが悪ノリで作ったものです。一応来る者拒まずですので、預かってはいるのですが…」
「ふーん…。あ、ゼロスくんもいるんだ」
「…どこか通じるものがあるのでしょうね。あの2人、意外と仲良しですから」
やれやれといった風にチャットは言った。詳しく知りたかったけれど、たぶん受諾しないと話してもらえないんだろうな。
とりあえず、討伐依頼来てるからこっちを先にしようかな。
後日『Gビクトリー』クエストを受託した。