彼女――セレスは驚いていた。
「ど、どうしてあなたがわたくしの名を…!?」
「ゼロスくんに聞いた。かわいい妹がいるって」
 嘘だけどね。でもロイドくんと話しているのは聞いていたし、あながち間違ってはいないかも。
「ワイルダー…間違いないのか?」
「へぇ、ゼロスって妹いたんだ。なんで話してくれなかったのかなぁ?」
「…それは…」
 クロエが驚くのも無理ないよね、ゼロスいつもあれだし。カノちゃんの言葉にセレスちゃんはうつむいてしまった。
『新しい記憶』の通りなら、彼女は…。

「ゼロスお兄様〜、本当によかったんですか?」
「いーのいーの。かんわいールビアちゃんの頼みなら♪」

 壁越しに聞こえてくるルビーとゼロスくんの声。そういえばルビーって兄が欲しかったんだっけ。
 …カイウスはどうしたのかな。

「ところでぇ〜、カイウスくんはいいのかな? 妹よ」
「あんなのほっとけばいいんですよっ。いつもいつも悪口言ってばっかりなんだし」

 また喧嘩したんだ。でもちょっとタイミング悪かったなぁ…。
 ちらりと見れば肩を震わせていた。
「……っ」
 きっと心配で見に来たんだろうなぁ。
「セレス、ちゃん…?」
 大丈夫? とカノちゃんが覗き込む。
「決めましたわ! わたくし、ここの一員になります!」
「ちょ!?」
「えっ!?」
 勢いよく立ち上がり、そう叫んだとたんセレスちゃんは咳き込んだ。わたしは彼女の背をさすった。
「無茶しちゃだめ。…ここに来るまで大変だったんだから、ゆっくりしてて」
「で、ですが…」
 実の妹としては悔しいんだろうな。ただでさえ、離れて暮らしているんだから。
 うーん、どうしたらいいかな。

***

 とりあえずセレスちゃんは思いとどまってくれた。
 女の子達を集めて、食堂会議。
「まあまあ、まあ。通りで可愛らしいと思いましたわ。思えばお兄さんそっくりですものねぇ」
「あーいうのが兄だと苦労しそうだけどねぇ」
「そうですかぁ? 少なくともお兄ちゃんよりはマシだと思いますよ」
 パニパニ、ナナリーの反応にさらりと毒を吐くリリスちゃん。何気に酷いな〜。
「ちょ、リリス。あんた、スタンが心配で来たんじゃなかったの?」
「そうですよ〜でもちゃんと起きれる分、いいじゃないですか」
 あれ、リリスちゃんってこんなに毒を吐く子だったっけ?
「でも…なぜ、彼は妹がいることを話さなかったのでしょう?」
 アニーの疑問にみんなが一斉に黙る。
「ほーんと。チェスターみたいに名前連呼されるよりかはいいけど、話してくれてもいいのに」
 天井を見ながらアーチェが言った。
 おしゃべり好きで女好き。その点でも十分アクがあるのに、自他ともに認める美形でもある。
 そんな彼が隠し事をしていたなんて、誰も思わないんだろうな。
 わたしは『新しい記憶』で知っていたけれど。 今、この場にリフィとプレプレとコレっちはいない。わたしがあえてそうさせた。
「ローズは知っていたんでしょう〜? なんでゼロス様が隠してたのかも知ってるの?」
 アニスの言葉に、わたしは素直に頷いた。
 みんなの視線が集まる。
「家庭的事情でセレスはゼロスと別々に暮らしているの。その事情で話さなかったんじゃないかな」
 そう言えば、みんな黙ってしまった。ルー君とアッシュの件があるから、下手に踏み込まない方がいいって分かってるんだろうな。
 任務から帰ってきたルビーにも、それは伝わった。

To be Episode.18
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