「はいはい〜温かいココアが入りましたよ〜」
ことん、とカップが置かれる。
ふわふわとゆれる湯気と甘い香りが鼻をくすぐる。
「…おいしい」
「ふふっ」
パニパニの入れるココアは本当においしいからなぁ。料理もおいしいし。
ホールに出たセレスちゃんはリリスちゃんと談笑していた。同じ妹同士、気が合うのかもしれない。
甲板の入り口付近では、チェスターがちょっと情けない顔をしてアーチェにからかわれてる。ミントとクレスくんはそんな2人をみて微笑んでるし、仲いいんだなぁって改めて思う。
時折、イリアがスパーダと一緒にルカのことを話したりして本人を困らせたりしてるし、ルーティは任務帰りからか報酬を数えてる。
やっぱり、個性的だよ。アドリビトム(ここ)の人達って。
「さぁーて、噂のハニーはどこかなぁ〜?」
メンバーのほとんどがホールにいる。いないのは…ちょっと把握してない。
「あ、か…ルーティさんも帰ってたんだ」
ゼロスくんを筆頭にロイドくんたちと、カイル達が昇ってきた。
案の定、ゼロスくんは固まっていた。というより、驚きで動けないのかな。
女の子と言えばところ構わずナンパしていたから、みんなちょっと驚いていた。とは言え、ロイドくんたちは普通だったんだけどね。それに、女性陣は知っているから小さく笑っていた。
「おやぁ? 珍しいですね、ゼロス。あなたが女性に声をかけないなんて」
「ふん…ようやく自覚したということか」
科学部屋からジェイドが顔を出して、何気にリオンまで上がって来てた。部屋にいるかと思ってたのに。
「あ、セレス! 久しぶりじゃないか。元気だったか?」
陽気な声に、思わずみんながかっくりと肩を落とした。ジェイドだけは普段どおりだったけど。
ロイドに声をかけられて、セレスちゃんはちょっとだけたじろいだ。なるほどね。
「そっか〜みんなが話してたのってセレスだったんだね。なぁーんだ」
「医務室にいたんだよね? もう大丈夫なの?」
頭の後ろで手を組むジニに、尋ねるコレっち。途端、ゼロスがはっとしたようにセレスちゃんの肩を抱いた。
やるねぇなんてスパーダがからかう声も届いていない。
「なんでお前こっち来たんだよ!? トクナガはどーしたトクナガ! つーか、来るならくるで連絡くらい…」
はぁ〜とため息をつくゼロスくん。でもそれに対してセレスちゃんも黙っていない。
「そ、それはお兄様の方ですわ! 何時もいつもセバスチャンを通してばかり…。危険な所にも行ったと聞きましたし、わたくしは…っ、他の方のことも考えてくださいまし!」
――やっぱり、素直になれないんだなぁ。
それからゼロスも何かしら言い返していたけれど、セレスのマシンガントークにあっけに取られていた。こういうところは本当に似てるなぁ。
セレスちゃんからの依頼。それは自分のことを隠してゼロスくんに会わせてほしいという簡単なもの。女性陣に協力してもらって、男性陣にはセレスちゃんがゼロスの妹ということは隠してもらった。だから、その事実を知らない男性陣はびっくりしていた。そうだよね、何も話してなかったんだし。
「…俺さまの負けだ。よく来てくれたな」
やれやれと肩を下げて、ゼロスくんはぽんと妹の帽子に手を置いた。あれって意外と軽くへこむんだなぁ。直接頭においてるのと変わりないかも。
「そ、そうです! これ以上心配かけさせないでくださいまし…」
照れて一瞬目を離すもセレスちゃんはぎゅと抱きついた。
***
それから、セレスちゃんから手紙が届くようになった。執事の人を通して、ではなく直接。
「ローズちゃんも人が悪いなぁ〜。セレスに会ってたなら話してくれてもいーでしょーに」
「そのセレスちゃんに頼まれたんだから、仕方ないよ。依頼人のプライベートはそうそう簡単に話せないんだし」
「…ま、そりゃそーだ」
依頼である以上、身内でも話せない。雇い主に言われていては。
でも、これでひと段落かな。うん。