科学部屋へ行くとリフィ以外がそろって何かを覗き込んでいた。
「ああ、ローズさん」
「フィリア、リフィは?」
 軽く見回しても、あの姿はない。
「今は調べ物をしに席を外しています。それよりローズ。あなたはコレが何か分かりますか?」
 それより、って本当にひどいなぁジェイドは。
 気になったのもあるから、何も言わず机に置かれたものを覗き込む。
「これ売ったらいくらになるのかしら〜ウフフ♪」
 ハロルドは何かルティみたいなこと言ってるし…。
 置かれていたのは鉱石のようなものだった。でも採取できる原石とは違うし、加工した後の宝石でもない。それでも輝きを放っている。
 ルチルブライトとはまた違った輝きを。
「どうしたの、これ?」
「最近、これを巡っての商品トラブルがありまして。調査もかねて預かってきたのですよ」
 ジェイドが言うにはいわゆる麻薬取引などの非公式の悪徳商売現場を取り押さえたらしい。粉の変わりに取引されていたのがこの鉱石。
「よく見ると、何かに付けられるようにもなっているようですね」
「ん〜、宝石の類なのかしら。危険因子も見つからなかったし、ためしに付けてみようかしらね」
 ひょい、と手にして輪になってる(見えなかった…)ところに指を通そうとするハロルド。
 危険因子のない、謎の鉱石。もしかして…!
「ダメッ!!」
「っ!!」
 シュンッと科学部屋のドアが開いたと思ったら、ロイドがハロルドを突き飛ばした。
 宙を舞う鉱石をキャッチするわたし。結局叫ぶしかできないとか情けないな…。
「痛たた…ちょっとぉ、何するのよ?」
「あ、ごめん…でもあれはダメなんだ」
「どういうことですか、ロイドさん」
「あの慌てぶり…ローズ。あなたもコレの正体を知っているようですね」
 話してもらいましょうか、とジェイドがいつになく真面目だった。

***

 緊急集合で甲板に全員が集められた。今バンエルティア号は海に停泊し、オートに切り替わっている。
 ふわり、と彼も降りてきた。
「ゲーデ」
「ディセンダー、どうやら『負』の正体が分かったようだな」
「まずは、あなたから話して。そうすれば、分かるから」
 こくりと頷いてゲーデは話してくれた。
 各国でこの鉱石が出回り、手にした人のほとんどが異変を訴え、謎のモンスターが現れたりもしている。
「『負』はその鉱石からもたらしている。怒りに始まり、悲しみ、後悔」
 わたしは手にしている鉱石を見た。輝いているけれど、感じる。苦しんでいる。
「宝石とはまったく違うもの…それってなんなの?」
 カノちゃんの質問に、わたしはロイドくん達を見た。集められた彼ら以外が不安そうだったり、いぶかしんでいたり、無表情だったり様々な顔をしている。
「『エクスフィア』だよ。『要の紋』なしで直接着けたりなんかしたら、拒否反応を起こして死んじまう」
 クラトスがロイドくんを見て、彼はきゅと左の甲を抑えた。触れた、かな。

『エクスフィア』。『新しい記憶』で分かった、人から作られる鉱石。
 直接人体に埋め込むと細胞が変化し、簡単に言えば体中に毒がめぐり体を造り替えてしまう恐ろしいもの。それだけじゃない、肉体を失っても意識がそこにある限り、人は生きながらえてしまう。生きていく感覚すらなく、死んでしまうこともなく、ただそこで、ずっと。
 まさに『負』の塊ね。
「『エクスフィア』は壊さない限り、その人は永劫生きる。苦しみ続け、死ぬことすらも適わない」
「死してなお、苦しまなければならない、か…。我々は自ら望んだが、その鉱石は選ばせないのだな」
 女性陣の一部は気分を悪くして、支えあってる。カノちゃんもなんとか踏ん張っているけれど、無理してるんだろうな。
 そっと彼女の頭に手を乗せた。
「人から作られ、さらには人を苦しめるもの…ですか。これは第一級危険物になりますね」
「ロイド君。以前から気になっていたのだが…君の左手の甲。それも『エクスフィア』というものではないのかね? 君だけではなく、コレット君やジーニアス君、それに…ゼロス君とプレセア君にもあるように思えるのだが」
 眼鏡をくいっと押し上げるジェイドに静かに問うウッドロウ様。あえて触れなかったのはやはり彼なりの気遣いなんだろうな。
「『エクスフィア』は『要の紋』があれば装着可能だ。それぞれが理由を持って、私たちは着けている」
 ロイドくんの代わりに、クラトスが答えた。
 命から造られる鉱石は尋常ならざる力を発揮させる。驚異的なジャンプ力、驚異的な握力、驚異的な…術を。
「そうか。私からは以上だ」

***

 それからは依頼はほとんどがエクスフィアに関するものだった。ゲーデもちょくちょく来て報告してくれる。
『負』の化身である彼には、その場所が特定できるから情報も早い。
 同行者がいつも着いている。ロイドくん、コレっち、ゼロスくんかプレプレ、ジニ、クラトス。
 回収したエクスフィアはリフィの元で管理されている。
 中には普通に鉱山で取れたものもあったりして、わたしはその中から『負』を発するものだけ浄化している。
 ――在(あ)ってはいけないものだというのが、なんとなく分かった気がした。

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