粘菌の巣の3層目。モンスターもいないし、誰にも邪魔されない。
「リッドが夜に『夕日を見た』って言ってたんだ。そろそろ、時期なのかもしれない」
「飛行機とかじゃないのか?」
 ロイドくんの問いに、わたしは首を振った。そのまま彼から聞いたことを伝える。
 当然かもしれないけれど、ロイドくんは少しあせって驚き、ゼロスくんはいつになく真剣な顔になっていた。
「それって…!」
「俺、だろうな」
 わたしは頷くしかない。
「『エクスフィア』も話したし、コレっちもいるから疑問には思わないかもしれない」
「おっと、ローズちゃんそれは違うぜぇ?」
「どういうことだよ?」
「おいおいおい、ロイド〜? 考えてもみな? 今まで俺さまは何があろうと羽を出しちゃいない。それが急に出したとしたら、なぜ今まで黙ってたんだってことになる。俺もコレットちゃんと同じように天使化してることが知られるんだぜ? と、なるとだ」
「あ…」
『新しい記憶』でみんなは元の世界の記憶を取り戻している。そうなればコレっちが羽を持つ意味、クラパパが介添人である意味、ゼロイが魔法を使える意味を聞くだろう。
「もうしばらく様子をみる?」
 今のところ、リッドにしか見られていない。
 わたしの提案に、ゼロスくんは首を振った。
「いや、この際だからバラしちまうわ」
「ゼロス…」
「そんな顔すんなって。この美貌にさらに磨きがかかってもっとモテモテになるかな〜と思ったからよ。でっひゃっひゃ」
 がくりとロイドくんは肩を落とした。
「お前なぁ…心配して損した…」
 普段のようにしていたゼロスくんは笑いをやめて小さく「ありがとな」って言った。
 やっぱりこの2人って仲いいんだなぁ。

***

「討伐クエストは久しぶりかも」
「説明は先ほどした通りです。同行者はどうされますか?」
「ん〜…適当に声かけるよ」
「分かりました。では」
 チャットと別れ、ホールに行くとゼロスくんと鉢合わせた。
「ローズちゃん、お仕事?」
「うん。討伐なんだけど、どうせだから誰か誘うかなって」
「依頼見せてもらってもいい?」
 はい、と依頼状を見せるとゼロスくんはすぐに返してくれた。そしてパーティに入ってくれるとも。
 甲板に出てカノちゃんに話しかける。
「討伐? うん、いいよ」
「ありがとうカノちゃん」
 あと1人入れられるけれど…うーん…。
「魔法剣士2人で、わたし…」
 前衛ばかりだけどほとんどこれで行ってたしなぁ。隣ではいはーいって手を上げてるゼロスは無視。どうせ彼を連れて行きたい…あ、そっか。
「それじゃあロイドくん連れてくるから、ここで待っててくれる?」
「ありゃ、取られちまったか〜」
「フフ、1本取られたね、ゼロス」
 楽しそうにする2人と別れ、わたしは船の中へと戻った。

「ねえゼロス。知ってる? 最近ね、夜になると夕日が見れるんだって」
「へぇ〜でもそれってマジもんの夕日じゃねーの?」
「ううん、真夜中にふわりと浮かんでゆっくりと蝶みたいに動いているの。綺麗だって、噂なんだよ」
「綺麗ねぇ…。でもカノンノちゃん〜? 女の子が夜更かしなんてしちゃいけないね〜。お肌の天敵だぜぇ」
「そうだね。でも不定期だから…また見たいなぁ」
「……」

To be Episode.23
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