「なんですってえぇ!?」
 バンエルティア号全体に、チャットの声が響いた。

「どういうことですか、ジェイドさん!」
「いやぁ、このアドリビトムの噂を聞いた我が国の責任者方々が、ぜひとも拝見したいとのことでして…。古来より文献のみに存在する、アイフリード伝説の船。それを拠点とするディセンダーを乗せたギルド。ぜひこの目で見たいと…」
「だからって船長のボクに許可なくですか!」
「すみませんねぇ、何しろお偉い方ですし、グランマニエに所属する以上は断れませんから」
 ばしんっ、と机を叩くチャットに臆することなく、ジェイドは飄々と答えた。
 はあ、とチャットは息を吐いて「何時なんです?」と聞く。
「明日」
「はあっ!?」
「冗談です♪ 色々とスケジュールの調整もありますからね、一週間後になります」
 わあ、なんかこのアホ大佐生き生きしてるよ…。チャットじゃなくてもため息つきたくなるのが判る気がする。

 ジェイドの話をまとめると、世界を救ったディセンダーと名を上げる『アドリビトム』のバンエルティア号を一目見ようという話だった。
 今まで来なかったのはナディや他の国との争いを避けて、との事らしい。これは言い訳みたいなものだとチャットが愚痴っていたけれど。
 グランマニエに所属する以上、断るということはできないらしく、一週間後には国のお偉いさんつまり軍関係者や貴族が船に来るらしい。
 さすがにギルドメンバー全員を紹介するにはいたらず、船長兼ギルドリーダーのチャット、軍所属のジェイドとティア、マリントルーパーのセネル、騎士であるクロエが参加することになってる。
 当然、ディセンダーであるわたしも強制なんだけれど…一週間後に向けて、特訓することになったのがいる。


「やっぱフランクのままは通用しないよなぁ」
 展望室で腕を組んだままガイが苦笑した。
「ツケが回って来たのでしょう。何事も慣れ、ですよ」
 こっちはニコニコと笑うジェイド。
「では、ルーク。くれぐれも“先輩方”に迷惑をかけないように」
 そう言ってジェイドは梯子を降りていった。
 うなだれるルー君に、ぽんとガイは肩に手を置く。

 グランマニエの親善大使であるルー君は、絶対的に参加必須で、苦手とする所謂(いわゆる)貴族言葉に慣れなくてはならなくなった。

***

 眉をひそめるルー君は今すぐにでも逃げ出したくてしょうがないように見えた。実際、逃げ出したいんだろうなぁ。
「うう…」
「ま、いつかは行かなきゃならなかったんだ。いい機会じゃないかルーク?」
 ちらりとわたしは左を見ると、クラトスとウッドロウ様とゼロスくんとユージーンがいた。
 …あれ、なんでわたしここにいるんだろう?
「お前も、学んでおくといいだろう」
 そう思っていたら、ぽつりとクラトスが呟いた。「損はない」と。
「微力ながらも、頼まれた以上は誠意をつくそう」
 そういえばウッドロウ様は出ないんだったかな。身分隠してるからなぁ…。
「王族で在る以上はそれ相応の態度を示さなければならん。自由でいるのはいいことだが、公私の区別をつけられるようにならねばな」
「はい…」
 ユージーンも堅いなりに応援してくれてるのが分かるから、ルー君も素直に頷いた。
「野郎ばっかりかと思えばローズちゃんもいることだしぃ〜、ここはいっちょやってやりますか」
「なんか、ゼロスにだけは教わりたくないんだけど…」
「へえへえ、どうせ俺さまは三枚目ですよ〜。そのまま恥かいちまえ」
「ゼロスくん、お願い」
 ルー君の気持ちも分かるけど、ここはゼロスくんを立てておかないと。
「ハニーの頼みとあらばしょうがねーなー」
 いつもの調子で笑う彼に、ガイがそっとわたしに耳打ちしてきた。
「あいつ、ほんとに貴族なのか?」
「うん。王族の次に偉(えら)い人」
『新しい記憶』どおりでも、『グラニデ』でも、それは間違いなかった。

To be Episode.27
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