クラトスの言葉を頭の中で繰り返す。
マナの過剰摂取…増えすぎたわたしの中のマナ。
倒れたとき、ゲーデも言っていた。かつての彼のようになるかもしれないって。
「選択するのはお前自身だ。だが、このままでは」
「この世界にいればわたしが消えるかもしれない、ってことなんだね」
もしくは、マナに取り込まれてしまう。
さざなみがわたし達を包むように音をたてる。世界樹が呼んでいるなら還らないと。でも、今度は記憶の選択はできない。
戻って来れるかすら、分からない。
「カノンノ!?」
ニアタの声に、ホールへとつながるはしごを見れば、カノちゃんが両手にコップを持って立ちすくんでいた。
彼女の前に立って、左手のコップを受け取る。
「パニパニに言われて来たんだね、ありがとう」
コップにはココアの甘いにおいが鼻をくすぐり、今すぐにでも飲みたくなるようなものだった。カノちゃんはみんなが大好きだから、お話が好きだから、待てなかったんだろうな。
「ロー、ズ…」
俯いた彼女は震える声で必死に言葉を繋ぐ。
「今の、ほんとう…?」
「…うん」
隠す必要なんてないし、嘘をつく必要だってない。
素直に、頷いた。
急ぐべきだけれど、まだそんなすぐに行かなくてもいいはず。そう思って、カノちゃんと並んで彼女の定位置に座ってココアを飲む。
…また、これを飲めなくなるのは寂しいな。
甲板にははしごの近くにクラトスとニアタだけ。
「クラースさん達が話してた…。ローズはマナを過剰摂取してて、それを調整しなきゃいけないんだって」
「うん」
「それには世界樹に還らないといけないんだって。…また、あなたとお別れだね」
両手でコップを持つカノちゃんは、一口も飲んでいない。わたしがいなくなるんじゃないかって不安でしょうがないんだろうな。
それに、今回は前とは違って確証がない。
「でも、最後じゃないよ」
だからこれは自信からくるものじゃない。ただ単に、そう思うから。
「え…」
「…また、迎えてくれる?」
カノちゃんの頭を軽く撫でて、わたしは口の端を上げた。
じわり、と彼女の目に涙が溜っていく。こんな風になるんだなぁ。
「うんっ…うんっ!」
力強く頷いた彼女に、冷めてしまったココアを飲みほしそのコップを渡して、立ち上がる。
はしごの傍にいる2人を見ると、介添人は立ち去ってもう1人はゆっくりと光を弱めた。
わたしは、世界樹の洞へ停泊したバンエルティア号を降りた。
***
「……ねえ、ニアタ」
「なんだね」
「あの人、戻ってくるよね」
「……ああ」
「もう3ヶ月…ふふ、前もこれくらい待ったなぁ…それ以上かな」
「カノンノ…」
***
――っ体勢整えてっ…!
「っディセンダー!」
「あ…!」
ふぅ、着地成功。甲板に頭ぶつけそうだったんだよね。
2つの声にちょっと戸惑ったけど、ああ、よかった。
「ただいま、カノちゃん。ゲーデ」