ハプニングがあったとは言え、ギルドである以上は仕事がある。
依頼の書類とにらめっこしているチャットに苦笑して、わたしは何かないかと尋ねた。
「ローズさんほどの腕となりますと、逆にどれをしてもらえばいいのか迷いますね」
「はは。じゃあ、今やらなくてもいいようなものを省いてくれる?」
チャットの答えにわたしはそう言った。どれも急ぎじゃないから余計に整頓できないのかな。
「修行系以外でしたら、なんでも」
とんっ、と彼女は右側へと書類の束を置いた。みんな、タイミング悪いよ…。
左側に置かれた書類の束よりは少ないけれど、それでもチャットの負担を大きくしていることは間違いない。とりあえず、わたしはそこから採取や装飾などすぐ片付くようなものを探し出す。
討伐は後回し。
「チャット。装飾品とか預かれる場所はある?」
「ぼくの後ろに」
「じゃあ、この書類全部、受諾と完了をお願い」
はい、と1枚ずつ机の上に書類を下敷き代わりに依頼の品を置いていく。チェックを入れていくバンエルティア号の船長のタイミングに合わせて、わたしは次々と依頼を終わらせる。
数分後には左側の書類が最初の半分になっていた。
「終わった〜!!」
「よかった」
両手をあげてほっとするチャットに可愛いと思いつつ、わたしは声をかける。
「助かりました。よくストックがありましたね」
「まあ、暇があればよく作ったりするから…」
時には材料の方が溜まりにたまって、ドロップしたのに捨てなければならないんだけど。
「残りはほとんど討伐だったから、修行待ちの人たちに言えばいいんじゃないかな」
「いないのに受託されては困る、っていう人が多いんですが…」
「あらら…」
相手は結局わたしになるのになー。うん、彼らが暇だったら付き合ってもらおう。
「ん、でもそろそろ休憩したほうがいいよ。パニパニにココア貰って来るから待ってて」
「感心ですね、親分を気遣うのも立派な子分の証です。……すみません」
いいよ、と言ってわたしはホールへと出た。
船長兼ギルドのリーダーも大変だなぁ。
パニパニにココアを貰ってチャットに渡し、わたしは地下第1廊下に出た。
いつもは右側に立っている姿がない。
「あれ…」
目指す部屋の前にも、いなかった。
「出かけてるのかな…」
片方はぶらぶらとしていそうだけれど。
ゲストルームの扉をノックして、わたしは入っていった。
「ローズぅ〜? いないのー?」
「あらアニス。ローズならさっきコレット達と出て行ったわ」
「ティア。えーせっかく依頼持ってきたのに」
「あ〜さっき見たなぁ。ったく、いつもいつも…。たまには私達も誘いなさいってのよ!」
「大方、イリアに食われたくないからじゃねーの?」
「言うわねスパーダ。むしろ私はルカといたくないからじゃないかと思うのだけど?」
「ひ、酷いよイリア…」
「イッシッシッシ。冗談に決まってんでしょー」