うん、こうなることは分かってたよ。予想してた。
「クラトスのおっさんがいるのは嫌だけどさ〜、ローズちゃんが危ない目に合わないようにってね」
 どうせこうなるんだろうってのも分かってたけど。けど。
「だったらなんで依頼受けたんだよ」
「そりゃあ、決まってんでしょーよ!」
 ため息をつくロイドと、先を行くクラトス。わたしの依頼を受けたゼロスの隣を歩くわたし。
 せめてカノンノだったら…ああでも、いや、うん…。
 なっ、という風にゼロスがわたしを見る。ああ、バレてるね、わたしの作戦。
「ゼロス、いくら依頼受けたからってローズにヘンなことするなよ?」
「変なことって何よハニー?」
「だからお前って目が離せないんだよなぁ」
 さらりとこういうこと言えるから、ロイドくんって本当カッコイイよね。本人気づいてないからよそおうとするけれど。
 まあわたしは応援する方だよ。近くにいられたらでいいし。
 目的地に着いたけどどうすべきか…。
「で、結局なんなんだ? ローズの依頼って」
「えっと…」
 わたしを見てくるクラトスが若干怖い! ああでも、やっぱりさこのままじゃいけないんだよ。
 わたしは世界樹が代わりみたいなものだし、カノンノはパニールとニアタがいるし、世界が違ってもカイルはあの2人の子供なわけだし…。
「ロイドとクラトスの一騎打ちが見たいな〜って…」
「へ? なんで?」
「ほら、ロイドくんはクラトスから剣を教わってるわけでしょ? 師を越えたいと思うのは弟子の性じゃない? そこにわたしも立ち会えたらいいなと思って」
 なんという言い訳だろう。だったら闘技場でいいだろって言われた。うん、そうなんだけどね。
「込み入った話を他人に聞かせないようにって配慮でしょ」
 後頭部で指を絡ませていたゼロスがいつものスタイルをとって口を開いた。
「ん?」
「アンタもそろそろ言ったらどうなのさ。俺さま、他人にゃ興味ねーけどよ、流石にこのままじゃいけねーってくらいのは、分かってるつもりだぜ…?」
 う、クラパパとゼロスくんの空気が重いです。
「お前もそう思ってこの依頼を作ったのか」
 こくりと頷くと息を吐いてクラトスが剣を抜いた。話が見えないロイドはちょっと焦ってる。ゼロスを見ると苦い顔してるけど、ロイドに見られたらいつもの笑い顔だ。
 世渡り上手ってのを学んだ気がした。


「どこまで知っているんだ?」
 2人の仕合を見ながら、ふとゼロスが尋ねてきた。
 いつものおちゃらけた調子と違う、低い声。
「何が?」
「はぐらかそうったってダメだからな。お前は、俺達のことをどこまで知ってるんだって聞いてるんだ」
「質問の意図が分からない。わたしはクラパパを思ってこの依頼を出したんだから」
 本人には迷惑だったかもしれないけどね。そして意図は分かってる。
「…なんで知ってたんだ、クラトスがロイドの実父だってこと」
「本人から聞いた。というより、聞き出した、かな」
「ふーん」
 ちょっと疑ってるよね。こっちの問題はまた今度片付けるから、気づいて欲しくないんだけど。
「ゼロスはなんで知ってたの? クラパパが話すとは思えないけど」
「実力行使?」
 にかっと笑われたらもう頭を抱えるしかない。なぜかこの2人っていがみ合ってるし。…いや考えの違いによるものだけどさ。
 キィンと、クラトスの剣が弾かれたのを見た。

 船に帰るとなぜか全員が知っていた。
 受けた人物を見ると知りませんって顔をした。知ってるな、これは。
「ゼロイ〜!?」
「機関室行かないとな〜」
 は、はぐらかされたし! ああもう食えない男だな、本当。
 ロイドくんとクラトスはみんなからお祝いやらひやかしやら受けてる。まあとりあえずはいいかな。
 機関室に行くとチャットが疲れた表情をしていた。ごめんなさい。
「じゃ報酬もらうとすっかな〜。あ、パーティは解散しといて」
「はぁ…まあこれでルークさんとアッシュさんみたいな関係のままでいなくていいですけどね」
 そういえばファブレ家問題も解決したんだっけ。忘れてた。
「(1番辛いのはカイルだろうな〜)まあでも、邪険に思ってないんだからいいのかな」
「はい?」
「なんでもないよ」
 ぽそりと呟いたけど、聞き取られても問題ないしいいや。
 その日の夕飯はパニールがおお張り切りしちゃった。あ、リリスも。
「せっかく血の繋がった家族ですもの! 腕がなっちゃいましたわ〜」
「やっぱり一緒にいるのがいいよね! 私も嬉しくって!」
 ただでさえ大人数におおぐらいがいる船。倍どころか十倍になってる。パニパニっておばさんだった、よ、ね…?
「…今度帰るか」
「……」
 チェスターがぽつりと呟いた。いつもならちょっかいかけそうなゼロスも黙ってる。こっちはどこあたりなんだろう? 『新しい記憶』の最後らへんだったらいいのに。
 それぞれが複雑事情で家族に会いたかったり会えなかったりしている。そんな中で事実を知ったロイドは焦りながらもどこか嬉しそうだった。うん、やっぱり依頼頼んでよかったかも。
「血が繋がっていなくても、この船にいらっしゃる方々は家族だと思ってますよ?」
 パニパニがいつもよりもにこやかな顔で言った。ああもう、可愛いな〜。

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