「おいしい…」
こくりと飲み干し、わたしはコップを置いた。ぱたぱたと飛んでいたパニパニがポットを持っておかわりを入れてくれる。
「うふふ、そう言ってくれると嬉しいわ」
「本当にミセスは料理上手ですね。いやはやジャニスがうらやましいかぎりです」
少し離れた場所でジェイドがティーカップを持って言った。
「あらいやだ」
両頬に手を当ててはじらうパニパニ。可愛いなぁ、これでおばさん年齢だなんて思えないよ。
「謙遜(けんそん)する必要はないですよ。これならば給仕でも文句はないだろう」
「ほんと。俺、城以外でこんな美味いの飲んだことない…」
ウッドロウ様とルー君が言い、わたしの前で飲んでいた彼もティーカップを片手に口にする。
「世が世ならマダムはメイド長だったかもな〜。うん、美味いうまい♪」
「ルーク、俺のは美味くないみたいな言い方だな…」
「え、いや、そんなことないぜ!?」
あらら、ルー君の前で飲んでいたガイが落ち込んじゃった。にやにやと笑うジェイドがなんか不気味…。
「そういえばルークさんは王室の方でいらっしゃいましたね。良かったわ〜お口にあって」
パニパニの台詞に、ふとわたしは周りを見た。食堂にはジェイドとウッドロウ様、ルー君とガイ、わたしとゼロスくん。
『新しい記憶』通りなら、このメンバーは…。
「ん、ローズちゃんどうした?」
「えっと…」
言うべきかな、一応隠してる人もいるんだけど。ちらりと視線を滑らせればゆっくりと横に振られる。わたしにだけ、分かるように。
「エステルやクラトスもそんなこと言ってたな、って」
「ユーリさんもでしたね」
「クラトスの旦那っちゃー意外だな」
はは、とガイが笑う。まあイメージできないよね。パニパニの一言に助けられたとも言えるんだけれど。
「あ、あのウッドロウさん」
「何かね?」
「俺…どこかでお会いしませんでした?」
そういえば彼らが来た時気にしてたっけ。クラトスとは通じ合っていたけれど、どうするんだろう。
ティーカップを一度口につけて、ソーサラーに置いてウッドロウ様は
「使いで何度かそういったパーティには出席したことがあるよ。けれど、親善大使殿と直に会うといったことはないがね」
と言った。
「そう…ですか…」
すみません、と小さくなるルー君にぽんぽんとガイが頭を軽く叩いた。幼馴染っていうよりお兄ちゃんだなぁ。
「使用人的な立場にしちゃ、俺さまも結構見たような気がするけど?」
チャ、とゼロスくんが空になったティーカップを置いた。
「あら、ゼロスさんも王立主催のパーティに出席なさったんですか?」
ちょこんと専用の椅子に座って、自らもココアを飲んでいたパニパニが尋ねる。
よくぞ聞いてくれました、な態度でゼロスくんは答える。
「俺さま神子だからさ、呼ばれちゃうのよね〜」
「え、でも俺見たことなかったぞ? コレットも」
「グランマニエはどうだったか。一応俺さまの故郷じゃ神子は王族の次に偉いのよ。で、コレットちゃんの所はそういうのがないってよ」
自他共に認める女の子好きのゼロスくんだから、挨拶だけ済ませて覚えてないだけなのかな〜ルー君のことは。
「あれ、それじゃあ俺より上なのかゼロスは」
んーと思案顔のガイ。位としては親善大使のお付だから下、なのかな…うーん王族というか貴族は難しいな。
「さあ? この中じゃ俺さまが下かもな〜ま、世界のハニー達は俺さまが一番だろーけど。でひゃひゃひゃ」
苦笑してわたしはコップに口をつける。
「そういう態度が、貴族らしからぬのでしょうねぇ」
「あ、はは…」
「言えてるな」
ジェイド、ルー君、ガイがそれぞれの反応をする。
「私にはむしろわざとそういう風に接しているようにも見えるけれどね」
「俺さまとしちゃ、あんたの態度が1番気になるけどなーウッドロウ?」
問われた彼は、くすりと笑って優雅に紅茶を飲む。動じないのはさすがと言うべきか。
「パニパニ、今日の夕飯手伝うね」
「あら、それはありがとう。助かるわー」
なんとなく場の雰囲気を変えたくてそうパニパニに告げれば笑って返してくれる。
貴族が好む味って、凄いんだろうな。
グランマニエの王族であり、親善大使のルー君。
正体を隠してはいるけれど、王家のウッドロウ様。
それに、ルークの従者であるガイ。
王族の次の位を与えられた神子であるゼロスくん。
「ギルドって言うより、国だよね、もう…」
「おや、あなたもそう思いましたか」
小さな呟きに、ジェイドが返事してきた。本当、喰えないなぁ…。