痛い。
外傷はない。
痛い。
損傷もない。
痛い。
胸が、心が。
苦しい。
内部プログラムにウイルスが混入しているのかと思うほどに。
そんなはずはない。ついこの間検診を受けたばかりだ。ならばこの痛みは?
アイアンハイドは胸の痛みを押さえながら、一戦を終え基地へと戻った。
基地には己と同型の白いトランスフォーマーと、型や背の違うトランスフォーマー達が数体おり、優雅にエネルギー摂取している女性が1体。
スパークは通常よりも早く波打ち、見えない誰かの手に鷲掴みにされていく。
これはなんだ。敵の作戦か? だが白のロボットに尋ねてもウイルスが入った形跡も痕跡もないと言う。
訳が分からない。
「はい、5回め」
赤い人さし指を立て、白のロボットは言った。
「…? なにがだ?」
首部を傾げ、アイアンハイドは問う。
「お前さんがついたため息だよ。どこかの文献に『ため息の数だけ幸せが逃げてく』とあったな」
「幸せ? ふん、文字より戦場から生き残れることのほうが幸せだ」
そうだろ? と訴えるアイにロボットは肩を竦めて見せた。
「治療する方の身にもなってもらえれば、これ以上の幸せはないがね」
「ぅぐ…」
「まあお前さんの場合、幸せはすぐ来そうなもんだよ」
「どういう意味だ?」
「医者にも治せないものはあるってことさ」
「ラチェット!」
ラチェットと呼ばれた白のロボットは高笑いしながら去って行った。アイアンハイドは1人、立ち尽くすしかなかった。
日にひに痛みは増して行く。ラチェットに訊いても医者は匙(さじ)を投げた。
どうすればひく? 治る?
このままでは戦えなくなる。隙を見せてはならない。
深夜の瓦礫の上で1人、アイアンハイドは頭部をかきむしった。
記憶回路が一つの映像を見せる。
基地にいる紅一点の存在。文字とは逆の水色のボディに麗しい唇。他人を寄せ付けない、しかしどこか魅(ひ)かれてしまう行動。
彼女が、忘れられない。
「ちくしょう!」
瓦礫の破片を拳でさらに砕く。痛みはよりいっそう増した。
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