コンドルが持ち帰った情報は、思わず聴覚機関(みみ)を疑いたくなるようなものだった。
 カセットテープに変形し、基地のメインモニターのスロットに自ら入ったコンドル。彼が録画したのはサイバトロンのマイスターとパーセプターが、赤いトランスフォーマーと話をしている。新しいサイバトロン戦士だろうと壊してやる、と意気込んだメガトロンは我が目(アイ)を疑った。
<あとはスムーズに話せるようにしてやるだけさ>
<楽しみだな。彼と一緒に仕事ができる…>
 赤いトランスフォーマーはおそらくコンボイと同じ背丈。特徴ある耳に白い額、胸部は黄色で右側にはサイバトロンエンブレムがある。見るべきはその両足。
 スピーカーらしきものがついている。
「サウンドシステムを搭載したサイバトロンか…」
 顎に手を沿え、メガトロンは映像を見続けた。空を飛ぶことのできる奴が少ないサイバトロンが新たに造ったトランスフォーマー。
 サウンドシステムを持つマイスターが楽しみなのは、同システムを搭載した仲間ができるからなのか。
<しかし、副官も思いつきますね>
<何がだい?>
<サウンドウェーブに対抗する為に、彼のデータをベースにコイツを造ろうなんて。我々にはおも>
 プツリと画面が消え、コンドルはカセットテープのまま巣へと帰った。
 中断されたテープにメガトロンは怒ることなく、名前の挙がった腹心の部下の背を見つめた。
 まさかこんなことになろうとは。

 先日、電力発電所を襲撃したデストロン軍は、遅らせばながらもやってきたサイバトロン軍と対峙した。
 必要なエネルギーを積み終えたのを確認し、メガトロンは融合カノン砲で発電所を爆発させて勝利を収める。まさかそれが、サイバトロン達の罠だったとは。今となっては悔やまれるばかりだ。
 あの場にはマッドサイエンティストのホイルジャックがいた。新たな武器を製造、実戦テストを試みていたようだが、相手にしていたサウンドウェーブには届かずに爆発。失敗したか、と嘲笑した。が。
(コンボイめ・・・)
 失敗ではなく、成功。
 攻撃武器ではなく、データ収集用の兵器だったとは。
 くるりとサウンドウェーブが振り向く。
「メガトロン様」
「なんだ」
 驚くこともなく、メガトロンは応える。
「タダチニアレヲ破壊スルコトヲ、薦メル。出撃ヲ」
 ただ黙ってメガトロンはサウンドウェーブを見やる。確かに自分のデータを勝手に読み取られ、利用されるのは気分が良くない。ましてや目の当たりにしてしまっては。第一、敵戦力が増えるのは好ましくない。それらもひっくるめ、出撃命令を出した。


「パーセプター。彼の名前はどうする?」
「そうですね…サウンドウェーブの収集能力に副官のサウンドシステムを更に強化・改良を加え、攻撃力をあげ、尚且つサイバトロンとして自愛の心を持った戦士。変形にはロボットモードとはなんら変わりない特殊システムで更に敵を…」
「パーセプター」
 いつまでも新しいサイバトロンの説明を続ける科学者に、マイスターは名を呼んだ。
「失礼。…サウンドウェーブに対抗して、そうですね。“ブロードキャスト”と名づけてはどうでしょう?」
「“ブロードキャスト”か。いいな」
「そもそも我々の体内にある、伝達ケーブルは…」
 またもや語りだしたパーセプターに、今度は止めずにマイスターは聴覚機関(みみ)を傾けていた。
 まわりくどくも分かりやすいパーセプターの話声は、まるで歌っているかのようだった。

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