『そう』なるように教育されていた覚えはなかった。結果は望みを叶えたのだが。
 重荷を負担をかけさせないようにしていたのだろう。――必要最低限のことは教わったけれど。
 するべきこと、倒さなければならない敵。
 運命は自分で切り拓くべきなのだと。
 昔から知っているのに、知っているから届かないと分かっているのに、今更になって胸が苦しくなる?
 近しい存在は逆に己を苦しめる。

 親は何の苦もなく育ててくれた。むしろ『この』役職につくと申し出たときは大喜びしていた。
 結局は子の意志を尊重していて、自分達の望む結果になったことに褒めたかったからかもしれない、
「私も同じだったよ」
 彼も…私よりかはすでに決められていたようだが、それでも彼の両親は彼に負担をかけさせなかったらしい。
 望むなら別のでもいい、と言われていたのだと。
「むしろ君が『これ』で良かったと思うよ。良く知っている者なら、安心できるからな」
 軽く笑う顔を見て鼓動が早まる。紅潮してきた顔を見られる前に一言答え、正面を向く。あくまで冷静に。
 ああ、もう…何故私は彼に対してこんな気持ちを持ってしまったんだ…。
「ドレッドロック?」
「は、はい? なんですか?」
 さすがに不思議に思ったのか、彼は私の名を呼んだ。
「後で私の部屋に来てくれないか? 用事があれば別にいいが…」
「いいえ。特には」
「そうか。では準備ができたら来てくれ」
「了解」
 何気ない、日常の会話だ。はずなのに私の鼓動は波打ち、顔の熱がとれない。
 部屋に行くのは仕事のことだろう。中間管理職の私を呼ぶのは。――どうして期待してしまう?
 自室の後片付けを済ませ、彼の部屋へ向かう。
 ドアの前で来たことを伝えれば許可され、私は中に入った。
 入ってすぐ、向かって左側には本やファイルが詰まった本棚があり、反対側にはダブルサイズのベッドがある。奥には彼に隠れてしまってはいるが、専用の端末が置いてある広々とした机があった。

NEXT