事件から一ヶ月が過ぎた。
コンコンとドアをノックする音が聞こえ、ガチャと開く。
「お邪魔でしたか?」
2、3本の花を持ったミーシャがベッドに近づくと、すでにグランドコンボイが座っていた。
「いや、すまないな、ミーシャ」
「退院まであと一ヶ月…。同じ環境で過ごせばすぐなれますよ。私たちはそうやって記憶を戻していきますから」
にっこりと微笑み、花をうつしかえると彼女は部屋を出て行き、入れ替わるようにキッカーとロードバスターが入ってきた。
「コンボイ、スカイファイヤーがすぐ戻ってきてほしいってよ」
「そうか。分かった、戻るとしよう。…すまないな、バタバタしてしまって」
グランドコンボイはベッドに座っている相手にそう言ったが、相手はかまわないと頭を左右に振る。
先客が退出すると、キッカーとロードバスターはベッドに近づいた。
「やっぱり…思いださねぇか?」
ベッドに座っているのは肩より少し長めの茶髪で、首にチョーカーをした青年だった。
青年は軽く頷く。
「ま、まだ時間はあるんだしその内、慣れてくるだろ」
「…ひとつ、いいか?」
「…?」
「グランドコンボイ、といったか…。あの人は毎日私のところへ来てくれる。…他の人でもか?」
『……』
やはり、かと。名前を思い出すそぶりを見せるところ、本当に記憶(バックアップメモリー)がないのだと。
「司令官殿は、」
「ああ。仲間でも全員平等だ。無茶をする頑固なヤツだけどな」
ロードバスターの台詞を遮ってキッカーは言った。
「そうか」
微笑む質問者の顔は凄く綺麗だった。
部屋を出て、待合室の前までくるとキッカーは後ろを歩いていたロードバスターに振り向き、彼の足を軽く蹴り上げる。
「いっ…!」
「バカか! アイツとコンボイが付き合ってた事はまだ秘密だろうが!」
「そうだったか…?」
「そうだよ! 記憶のないアイツにそんな事言ってみろっ。記憶を必死に探して、なくなる前の自分に戻ろうとする。そんなのは、アイツじゃねぇんだよ…」
ベッドにいた青年は記憶に関する部品を奪(と)られ、見舞いにきた4人や別の場所にいる仲間を忘れてしまっている。今は補助(サブ)回路を入れているだけにすぎない。
「キッカー…」
「コンボイだって辛いんだ…俺達以上にな」