自室に戻ろうと歩いていると、見知った姿が目にとまった。
 敬礼すれば、片手をあげて挨拶される。
「寝れないのか?」
「いえ、今から戻るところです」
「あー、じゃああの人のところに行ってくれ」
「は?」
 頭をかきながら、マスク越しにスカイファイヤーは目を泳がせる。
「缶詰なんだよ、せめて自室に戻るようすすめてくれ」
 俺が言っても聞きゃしねぇ、とバイザー越しの目を細める。彼につられるように肩を上下させ、インフェルノは了承した。

 コントロールルームに入れば、司令官机に詰まれた書類と、両手ともに持っている紙とにらめっこをしているグランドコンボイが。
 こちらが入ってきたことにも気づいていないだろう。嘆息(たんそく)し、インフェルノは総司令官に近づく。
「司令官」
「ん、インフェルノ? いつ来た?」
「先ほどです。一休みしてはいかがですか」
「この束が終わってからな」
 視線は合わせず、左手で机に置かれた束を軽く叩く。残り枚数は数えなくても分かるほど軽く千枚は超えている。
 机を占領しているのは積まれているのが4つ。合計で幾らあるのか見るのすら嫌になってくるものだ。いくらトランスフォーマーと言えど、働きづめは体によくない。
「コンボイ司令官、せめて自室に戻ってください。ここでは仮眠をとろうにもできませんし」
「スカイファイヤーにも言われたな…ああ、オーシャンプラネットでまた新しい生物が確認されたそうだ」
 軽くうなずいたかと思えば、視線はまた紙へと戻される。この調子ならば、副司令官であるスカイファイヤーがお手上げ状態なのも頷ける。
 息を吐いて、インフェルノは右腕を構えた。
(この手は使いたくないのだが…)
 惑星の様子は確かに気になる。だが、今は貫徹でもしそうな総司令官を少しでも休ませるのが目的だ。
「司令官」
「あと100枚…と、インフェルノ…?」
「いつまで経っても戻られる様子がないので、強行手段です。先に自室に戻ってください。書類チェックなら部屋でもできるでしょう」
 カチャ、と銃(オーバーハングクレーン)をグランドコンボイの頭につきつける。本来ならば許されるはずはないが、本人の前で理由を述べれば納得もいくはずだ。何より、インフェルノは彼の部下であり、仲間であり、恋人でもある。
「書類は私が運びます。今すぐに自室に戻って、仮眠をとってください。いいですね?」
「あ、ああ…」
 インフェルノは普段と変わらない、しかし力強い口調で念を押した。

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