休日の午後、部屋にいた私をグランドコンボイ司令官が訪ねられた。
特に断る理由もないし、副司令のように慌てて隠すものもなく、私は司令官を部屋の中へと入れた。
「どうされたんですか、今日はファイルを整理するとおっしゃっていたのに」
「ひとつ、いいものを見つけてな」
そう言って司令官はCDケースを私に見せた。中のCDは黒いラベルが印刷されており、銀で短剣のような模様が印刷されていた。同じ様に英字でタイトルも。
「CD、ですか?」
「君も気に入ると思う」
自室にいることが多い私達は、退屈凌ぎにCDを流す。ジャンルは様々だが、たまに地球関係のものも混ざってくる。これも、そのひとつだろう。余り見掛けないデザインだった。
「流してみてくれ」
黙ってケースを受け取り、CDを取り出してプレーヤーにセットする。小さくしていたボリュームを上げ、再生する。
キュルル、と短い回転音がした後、低い弦を鳴らす音が聞こえた。
(クラシック、か?)
バスの音から始まり、だんだんテノールまで上がった音はリズムを奏でる。時に激しく、時にゆっくりなその曲はなんとも言えない優しさがあった。
「どうだ?」
「…いい曲ですね」
瞼を閉じれば心が落ち着く感じがした。私はベッドへ腰掛けてまた目を閉じた。
「多分地球から送られて来たものの中に混じっていたのをそのままにしていたんだろう。ファイル整理の時に偶然見つけたんだ」
そう言いながら司令官は私の横へ座り、マスクを下ろして、私の膝へ頭を乗せた。
キュル、キュキュ、キュキュゥ、キュル、キュキュ、キュキュゥー…
リズミカルな弦の音は激しく、力強さを感じた。時折、弦が切れるのではないかと思うほどに押さえ付けられている音も聞こえた。
「チェロ、という楽器らしい。弦楽器という種類だそうだ」
「確か…バイオリンもそうでしたね」
以前、私もコンボイ司令官と同じように溜まってしまった書類の整理をしていた時に、ひとつのサウンドトラックCDを見つけ、部屋で流していた。そのCDのバイオリンで弾かれていた曲に私は柄にもなく感動していたため、そんな単語が出たのだ。弦楽器など、他にもあることは知っているはずなのだが。
「ああ。しかし…」
私の膝に頭を乗せた司令官の髪を流れにそりながらとかして話していた。
答えながらふと司令官は私の右頬へ左手をあてられた。
「司令官?」
不思議に思い、私は彼を呼んだ。瞬間彼の顔が近づき、私は無造作に瞼を閉じた。
唇に柔らかいものが軽く、ふれた。
目を開けると司令官が少し申し訳なさそうに笑っていて、私は嬉しくてそして恥ずかしくて、俯いてしまった。