情けない、とひとつ息を吐く。
机上の右側に積まれた書類を1枚1枚、ディスクトップモニターと見比べながら処理しつつ、机の向こう側を見る。
コントロールルームのドアと直線状にあるコマンダーデスク。ルーム全体が見渡せる場所で、サイバトロン軍総司令官・グランドコンボイはチラチラと一点を見ていた。
カウボーイ風のハットを被った黄土色の男性と、こげ茶色のショートヘアーにチョーカーを付けた男性が、手にした書類を見ながら何かを話している。そこまでは日常風景なのだがそれすらも胸のモヤモヤが増していくのだ。
またひとつ、息を吐く。
カチャ、カチャとキーを叩くが2人の様子が気になって仕方がない。抑えないといけない感情をグランドコンボイは必死に抑え、仕事に集中しようとする。が、楽しそうに喋る声が聞こえるたびにイラついてくる。
没頭しようにも手が動かない。
ようやく、2人の会話も終わり持ち場へとつくと、安堵する。しかし、ダークレッド色の褐色肌の男性がショートヘアーに近づき、肩に腕を回す。パネルを打っていたのか、間違ったキーを押してしまったのか、ショートヘアーの男性は褐色肌の男性を怒っているように見えた。
本当に悪いと思っているのか、ダークレッドは笑いながら謝っていた。それだけではなく、またも肩に腕を回し何かを言う。これにはグランドコンボイも黙ってられず、
「スカイファイヤー!」
と声を荒げた。
その声にビクッと肩を震わせながら、ダークレッドヘアーの――スカイファイヤーがコマンダーデスクに近づく。
「減給されたくなければ、これを元の場所へ返してきてくれ」
スカイファイヤーの右側に積まれた書類の山。2つに分けられてはいるものの、積み重ねれば軽く彼の背を超えるだろう。
「りょ、了解」
額に手を当て答え、書類の山を抱える。命令を出した本人は顔こそ笑っていたが、黒いオーラを放っていた。
見えなくなったのを確認すると椅子の背にもたれかかりため息をつく。
我ながら情けない、と。
個人的感情で部下の給料を決めるなど、職権乱用もいいところだ。償いに減らすのではなく、少しだけ増やそうとグランドコンボイは思った。
「司令官、できたので見てもらえませんか」
「ああ…」
開いていたページを最小化し、送られてきたデータを開く。目を通し、ミスやスペルミスがないか等チェックする。
全部確認すると黄土色の男性を呼んだ。
「今日はこれで終了だ」
「わかりました。じゃ俺はこれで…」
「ホットショット」
「?」
退室しようとした男性を呼び止める。ホットショットと呼ばれた男性は何か、と振り向いた。
「個人的な質問なんだが…答えられる範囲でいい。…ロディマスとは上手くいってるか?」
「!! な、き、急にどうしたんですか!?」
「どうだなんだ?」
「い、いや…その、う、上手くは…いいってるとは…し、失礼します!!」
ボンッと一気に顔を染めたホットショットは呂律の回らない舌で答え、早々にその場を離れた。
初々しい行動にグランドコンボイは軽く笑った。
「ウイングセイバー、この書類を経理と事務に届けてくれないか。ようやく終わった」
「了解!」
ピンクカラーの髪に金色のマスクをした男性が書類の束を持って退室すると、再び積まれっぱなしの書類に手をかける。