翌朝、見回りついでにインフェルノが指導している射撃訓練場を覗く。
変わらない、無表情ともいえる感情を表立たせない彼が、視界に映る。マスク越しに息を吐く。
しかし、手本として撃った彼の弾は目標から0.1ミリ弾道がずれていた。訓練兵では気づかないだろう、わずかなズレ。
それ以外は目立つミスはなく、そっと立ち去った。
自室で昼休憩をとっていると、来客を知らせるブザーが鳴り、通す。
コーヒーカップを両手に持ってインフェルノが入ってきた。
「お疲れ様です。どうぞ」
「ありがとう。…ん、美味いな」
マスクをおろし、カップに口をつける。苦味が午前中の疲れを取り、温かさが癒しをくれる。
右側に置かれたソファにインフェルノは腰かけ、コーヒーを一口すすった。
「…インフェルノ。まだ本調子ではないのか?」
びくり、と小さく小さく、気をつけなければ分からないほど小さく、茶色い肩が跳ねた。瞼を閉じ、開けて尋ねた相手を見る。
「先ほど、訓練場で君を見た。わずかに弾道がずれていたようだが…」
「……」
2つのカップから湯気が揺らめく。
「…大丈夫です」
ゆっくりと力強く、防衛参謀は答えた。橙色の瞳が総司令官を貫く。
「そうか」
そう言ってグランドコンボイはコーヒーを飲み干す。
心(スパーク)のどこかに違和感を感じながらも、もう大丈夫だ、と。
口数の少ない彼は、しかしハッキリとものを言う。口でも目でも。
自らの強い意志を強調できる。それは直属の部下の中で、一番だろう。
今でも響いている。あの岩が生まれる星の崖下での言葉が。
銃音の中、聴覚機関越しに聞こえた台詞。
書類に目を通し、判を押す。