暗闇の中、ふとグランドコンボイは目を覚ました。
一般兵と違い、広々とした総司令官質には簡易ではあるが台所(キッチン)も設置されている。多忙によりエネルギーをあまり摂れないときがある。要である総司令官に倒れられてはいけない、との配慮からだ。
そのキッチンから水音が続いている。
赤外線モードに切り替えて、ゆっくりと近づいていく。人影が見え、そこの電気を点ける。
焦げ茶色のショートカットが揺れ、苦しげに咳き込んでいた。
「インフェルノ」
左隣に立てば、ポタポタと滴を零しながら顔を上げる。切れ長の瞳には覇気がない。
「司令、官…」
「大丈夫か?」
うつむき、きゅっと蛇口をひねり水を止める。流れっぱなしだった動きが1粒落ちて、止まった。
「すみません、起こしてしまいました?」
「構わないさ」
そう言ってグランドコンボイは洗面所からタオルを持って、インフェルノに渡し彼は小さく「すみません…」と言って受け取った。
顔を拭いたタオルを綺麗に畳み、タラップに置く。
グランドコンボイはそっと、インフェルノの右腕を掴んだ。瞬間、彼の体が跳ねる。
僅かながら震えてもいる。何かに、怯えている。
そのまま腕を引っ張り抱きしめてやる。
「……」
ゆっくりと腕が回され、インフェルノは瞼を下ろした。
ふとした時にインフェルノはあの時の夢を見る。
崖下に囚われ、敵のプログラムを注入された時の事を。
体は新しく造られた。しかしスパークは覚えている、あの忌まわしい出来事を。
「申し訳ありません…もう、大丈夫です」
苦笑する彼を抱え上げ、グランドコンボイはベッドまで運び降ろした。
「しっ、司令官!?」
「ならもう寝るぞ。夜明けまでまだ時間はあるしな」
そう言って自らもベッドへ入り布団を被る。今度は安心して眠れるだろう。
悪い夢など見ずに。