アルタミラの少し豪華な客室で、ロイドは机に向かっていた。
その筋では知られている養父譲りの器用さで、彼自身の腕も認められつつある。それに目をつけた貴族が、ぜひとも1品を売ってほしいと頼んできたのだ。
旅をしていたレザレノカンパニー会長を伝って。
最初は乗り気ではなかったロイドも、断るには惜しい顧客だと言う会長の頼みに折れたのだった。
細工物は得意であり、好きなことだから材料を揃えればすっとデザインは頭に浮かび、手は勝手に動き出す。
そうして2日。ナンパに出ていたゼロスも、今は部屋で剣と盾の整備をし、戦利品を仕分けし、備品の雑誌を読んでいた。
ロイドが席を離れるのはトイレと、食事の時だけだ。あまりに夢中になっているので、風呂に入るのを忘れている。旅では入れないことは多々あるが、折角なのだから入れ、と昨夜言った。
けれども彼の答えは宙に浮かび、消えてしまう。
どの様な物を作っているのか気にはなるが、話しかけづらく、覗き込むことすらできない。
んー、と両腕を伸ばし一息つくロイドにゼロスは声をかけた。
「休憩するか?」
「そうだな…ちょっとだけ」
振り返ったロイドの顔は納得のいくものが作れているらしく、朗らかだった。久々に見る少年の顔に内心息をつきながらゼロスは雑誌を置き、立ち上がる。
「あんま根つめてるとかたまんぜ〜」
「ん…。でもさ、楽しいんだ」
かたんっと作業机と化していた席から離れ、ロイドはベッドの淵へと座りなおす。
飽きっぽい彼がずっと続けている事。将来設計にも入っているそれはきっと旅の間も続けるだろう。
それでも、無理は禁物だ。戦闘だって時にはあるのだから、睡眠不足でやられました、など洒落にならない。
こくりこくりと舟を漕ぎ始めた少年に、くすりと笑い青年は
「ちょっと寝てもいいんじゃねーの」
「うん…でも…」
「ならシャワー浴びて来い。ちったー目覚めるだろ」
「ん…」
急ぐ物ではないのだから、とゼロスは半ば無理やりロイドを浴室へと放り込んだ。あれは作品が出来上がるまで寝ないつもりだ。ならばせめて、寝落ちしないように、と湯を浴びることを進める。
身体が温まれば少しは目が覚めるはず。
「さて…」
その間、ゼロスは簡単な湯沸かし器と備品のカップを手に取り準備を始めた。