嵐が去ったかと思えば、また来るもので。
でも、今回は凪(つむじ)のようなものだったのかもしれない。
「右手におたまを! 左手にフライパンを! 横たわりしものに……死者の目覚めー!!」
カンカンッといい音がしている。
食堂にいても聞こえるし、凄いよね。
「あれ、パニパニ。氷持ってどうしたの?」
氷の入ったボウルに布をかけて、パニールが食堂を出て行こうとしていた。
「いえね、…かわいらしいお嬢様がいらしたんです。でも、疲れがでたんでしょうね。ここに着いたときから体調がおもわしくなくて…」
「そっか。あ、部屋の前までならついていってもいいかな?」
倒れちゃったんだ。医務室にいるんだろうけど、誰か気になったわたしはパニパニに聞いた。
「そうねぇ、面会謝絶でもないし…いいですよ」
「ありがとう」
ホールに出て、医務室に行く。
ドアを開けて、パニパニを先に行かせる。パタパタと羽を動かして手際よく氷のうを準備していく。
「お会いになります? よく眠ってらっしゃいますから、そーっと、ね」
口元に手を当てながら言うパニパニに頷いて、ゆっくりとベッドに近づく。
……いつも思うけど、医務室って狭いよね。
のぞきこむわたしに
「かわいらしいでしょう?」
と彼女は言った。
女性ということもあり、男性は強制的に面接禁止になっている。
医務室で横になっている、突然現れた女の子。
「赤い髪をショートボブにしていて、オレンジ色の大きな帽子を被っていたの。とても愛くるしい姿だったからついついかまってしまってねぇ」
「依頼しに来たのかな?」
「さっき様子を見てきたが、よく眠っている。誰かに似てるともいえるんだが…」
照れ笑いをするパニパニに、カノちゃんが素直に疑問を口にする。そこにクロエが来た。
「次に起きたときに聞いたらどうです? ここに来たってことは、何か目的があったんでしょうから」
元気いっぱいの笑顔でリリスちゃんが言った。ここの女の子たちって本当、元気な子多いなぁ。
それにしても…赤い髪にオレンジ色の帽子…。
まさかとは思ったけれど、本当だったんだ。
***
医務室にいる子の世話は交代で行っていた。1人のときもあるけれど、たまに2人だったり3人だったりする。
今はわたしとカノちゃん。それから、クロエ。
部屋に入ると彼女は上半身を起こしていた。
「あ、起きてたんだ。大丈夫?」
「……」
彼女はちょっと緊張というか警戒してるのかな。
「私はカノンノ。安心して、ここはアドリビトムっていうギルドだから」
「…! そうでしたわ!」
立ち上がるも、彼女はふらついてしまいクロエが慌てて支えた。ちょっと遅れちゃったな。
「無理をするな。倒れたのだろう?」
クロエはゆっくりと彼女をベッドの上に座らせた。寝かせないところが気遣ってるのかも。
わたしはしゃがんで彼女と視線を合わせた。
「イード・ローゼス。アドリビトムの1人。わたしはあなたを知っているから、願いを受けるわ」
うつむいていた顔を上げてこちらを見る。本当に似てるなぁ。
「あなたの依頼は何? セレス・ワイルダー」