甲板に出て月を見るのは、眠れないときの楽しみだった。だからか、空を楽しむリッドの気持ちは存分に理解していたつもり。
 夜空に浮ぶ月。影のせいでふたつ重なってるように見えるそれを見て、いつの間にか来たクレスくんが口にした。
「ここは月がひとつなんだ」
 新しい記憶を持つわたしは、その意味を知っている。クレスくん達の『世界』にある月は、ふたつ。
「珍しいの?」
「うーん、僕らは何も感じなかったんだけどね。それが普通だと思っていたし、『僕らの世界』を思い出してからも『グラニデ』では当たり前だと思っていたから」
 夜風がわたし達の髪と服、クレスくんのマントをたなびかせる。輝く月。小波(さざなみ)を聞きながら、ふと瞼を降ろしすぐ上げる。晴天…と言うべきなのかそんな雲ひとつつない空に光る蒼い水平線。
「あーあ、また怒られるよ」
「遅れてるのは彼かな?」
 くすと笑ってクレスくんが確認してくる。うん、とわたしは頷いた。
「僕も戻ろうかな。あ、ローズは僕たちの世界の月、知ってる?」
 どういうことだろうと首を傾げる。ふたつあることかな?
 バサリ、とはためく音が近くなった。
「ふたつある月にはそれぞれ名前があるんだ」
 あ、もしかして。キーワードがあからさますぎて、一瞬分からなかったことに気付く。
「シルヴァラントとテセアラっていう、国みたいな名前」
 クレスくんはにっこりと笑った。


翌日、わたしは問答無用で2人…3人に連れ出され、マンダージ遺跡の世界樹の根元にいる。
「どういうことなんだよローズ! クレス達の世界にある月がシルヴァラントとテセアラって!」
「ん〜…ちなみに世界樹もあるよ」
 ちらりとクラトスを見れば計りかねた顔をされた。言っちゃだめ、だよね…?
「2つの月に、2つの世界の名前。さらには世界樹とくりゃあ、単なる偶然とは言えねぇよな」
 そう言ってゼロスくんはクラパパを見た。ああ、なんか2人の間に火花が散っているような気がする…。
「ローズ」
 話してくれ、とロイドくんがわたしを見る。クレスくんの世界とロイドくんの世界は繋がっていない。…直接は。
 前にニアタが言っていた。『グラニデ』は『パスカ』の因子を受け継ぐ世界。同じであっておなじじゃない。
 同姓同名であろうと、それはまったくの別人であること。もっとも、わたしが『新しい記憶』からキーワードを出したことで『グラニデ』は特殊な世界なのだと分かったのだけれど。
 簡単に言えば、『グラニデの世界樹』は『パスカの世界樹』とイコールじゃない。
 まったく別の、存在。
「つまり、似て異なる世界っていうこと」
「…ん、…んー?」
 聞いたもののロイドくんは首を傾げるばかり。クラトスはため息をついて、ゼロスくんは納得してる。
「そーいうことね」
「ゼロス、分かったのか?」
「ああ。ハニーと違って俺さま頭いいから〜♪」
「悪かったな!」
「はあ…」 いつものことだから放っていたら、わりぃとロイドくんが謝ってきた。
「ううん。だから、クレスくん達の世界に同じようなモノ? があっても不思議じゃないんだ」
「…そーいや、カノンノもニアタの故郷にいたんだっけか。あ、なんだ。そういうことか」
 そう…。カノちゃんと同じ名前の別人…『パスカ・カノンノ』。

next