一週間後、ホールにはいかにもな人たちが集まり、ギルドメンバーはほぼ出払っていた。
チャット、ジェイドにティア、ガイにジャニス、パニパニ、クラトスにわたし。ゼロスくんにハロルド。それに、ルー君。
みんな正装に着替えていて、わたしはどうしようかと悩んでいた。白を基調とした服装をしたクラトスに、レディアントを着ればいいと言われ、それにしたけれど。
チャットとジェイドとティアにガイはいつもどおりで、カーン夫妻はタキシードとドレス。あ、ハロルドもいつもどおりだった。
正装を身に包んだルー君は特設された壇上にしっかりとした足取りで上っていく。
「ローズちゃん、俺さまの成果見てね〜♪」
前髪を半分上げて、くせっ毛をみつ編みにして白と黒を基調としたタキシードに身を包んだゼロスくん。
近づいてきた時はカッコイイな、と思ったけれどやっぱり彼は彼だった。
ふいに周りが静まり返って、壇上のルー君を見る。
マイクを通して、ルー君はこう言った。
「本日はお忙しい中、お集まりいただきありがとうございます。ご存知の方ばかりだとは思いますが、今一度ご説明させていただきます」
あら、すらすら言えてる。
最初会ったときのたどたどしさなんか全然なくて、聞きやすい。
「わたくし、ルーク・フォン・ファブレが所属させていただいておりますギルド『アドリビトム』は、この『バンエルティア号』を拠点としております。『バンエルティア号』は古来より伝わりし、伝説の海賊・アイフリードの所有する船です。幾多のアイフリードが存在しておりますが、これはまごうことなき本物です」
…なんだか、暗記したのをそのまま言ってるような気がするなぁ。少しざわついた会場にルー君の声がチャットを呼んだ。
ちょっとかたい彼女をティアがサポートしてる。やっぱりなんだかんだでチャットも、緊張してるんだろうなぁ。
ルー君の紹介とティアのサポートで、チャットは帽子を脱いでぺこりとお辞儀をする。たどたどしい言葉は逆に初々しさでカバーされてる。誰も咎(とが)めることなく、このバンエルティア号が正規のアイフリード所有であることを誰もが認めた風だった。
(この様子だとわたしも壇上にのぼることになるんだろうな…)
ちらりと両腕を組んでいるクラトスを見れば、頷かれた。うう、なんか緊張してきた…。
「それではアドリビトムに所属します、ディセンダーをご紹介しましょう」
会場がさらにざわつく。なんか、貴族の集まりでも一般の人と変わりないんだなぁ。
伝説の存在だって言われてもピンとこないし、わたしはわたしがやりたいことをやっていただけだから、そんなに騒ぐことなのか分からないや。
「イード・ローゼス嬢、前へ」
名前を呼ばれ、どうしようと思っているとゼロスくんがわたしの前に回って、お辞儀をした。
その様子に、周りの貴族達がわたし達というかわたし? をいっせいに見た。
「わたくしがお連れ致します。どうぞこちらへ」
カツッ、とゼロスくんは靴を鳴らして先を行く。ゆっくりと彼のあとを着いていくと後ろからクラトスも着いてきた。
ゼロスくんが一歩進むたびに、壇上までの道を貴族達が空けていく。
ぼそぼそと聞こえるのは何かと興味がわくけれど、今はなんと言えばいいのか分からなくて耳をすますどころじゃなかった。
壇上に立てば、ルー君が何やら話してる。彼の隣にわたしは立ち、一歩下がったところにゼロスくん、その反対側でななめ後ろにはクラトスが立っている。
「彼女こそ、この世界の危機を救ったディセンダー。イード・ローゼス嬢です」
歓声が上がる中、どうしようかと思っているとそっとゼロスくんが「一歩前に出てお辞儀をするんだ。2、3秒したら顔をあげて元の位置に戻る」と教えてくれた。
言われたとおりにして、元の位置に戻ったら今度は拍手が行われた。
その後はもう何がなんだか分からなかった。とりあえずルー君、ジェイドが何かしら言ってゼロスくんも何か言っていたような気がする。
普段の彼からは想像もつかない丁寧な口調で。ってこれは失礼かな? その間もクラトスは終始無言だったのだけど。
ゼロスくんとクラトスに連れられて、元いた場所に戻ればがちがちになったチャットがいた。
「チャット?」
「……」
あ、なんか可愛い。やっぱり船長でも子供なんだなぁ。
「飲む?」
近場のテーブルに置かれていたソフトドリンクが入ったグラスを渡せば今気づいたように素直に受け取ってくれた。その様子が可愛くて笑みをもらしたわたしに「なんです?」とやや不機嫌に言った。
うん、やっぱ可愛いな。